勝手口
朝日新聞の土曜版 beに「さざえさんをさがして」というコラムがある。
1960年代に朝日新聞朝刊に連載されていたサザエさんの4コマ漫画を題材に昭和を考古するという趣向だ。
政治、経済、社会事件と、その時代の世相を、いつもユーモアを含んで実に軽妙にうつしだしている。
昭和に生まれ昭和に生きてきた私に、毎回、「あったよなー」とその頃の自分を思い出させてくれる。
今日のサザエさんは1967年5月19日の朝刊掲載のものだった。
1コマ目では、そば屋の出前が、「天ぷらそば三つね!」と玄関から入って来る。それを受けて、厳格そうなおじいさんが「商人はウラにまわって」とたしなめる。
2コマ目 出前は裏の勝手口から入ってきて、「テンプラそば三つね!」と言う。それに対しておじいさんが、「おまたせしました、ご注文はテンプラそば三つですね」と言いなさいと小言を言う。
3コマ目 出前はおじいさんに言われた通り「おまたせしました。ご注文はテンプラそば三つですね」と言いなおす。そうしたらこのおじいさん、「いやウチはたのまない」と答える。
4コマ目 家の中から「あきれたもんじゃ」というおじいさんの声が聞こえてくる。その声を聞いて、外では出前持ちが「どちらがあきれるかヨ!」とぼやく。それをサザエさんが見ている。
という4コマ漫画だ。
話はそれるが、漫画の表現力というものはすごい。
たった4コマでこれだけのことが描写できるのだから。
これが小説だとこうはいかないだろう。
豆絞りの鉢巻きを頭に締め、白い半袖の下着に白い短パン姿にサンダルを突っかけ、みこしでもかつぎにくのかというような格好をした威勢のいい出前持ちが、「テンプラそば三つね!」と見かけ通りに景気のよい掛け声とともにがらっと玄関を開けて入ってきた。
主人のものと思われる下駄がきちんと揃えて脱がれていたし脱いであるし、ゴミ一つない掃除の行き届いた玄関だった。
玄関に鼻のしたに立派なヒゲをたくわえた厳格そうな主人が出てきて、「商人は裏から入るものだ」と言って勝手グチを指さした。
と、なるのだろう。
マンガ誌かよまないという総理大臣がいたが、一概に漫画を馬鹿にしたものではない。
小説家が原稿用紙数枚で描写するものを一コマで表現できるのも漫画なのだ。
と、横道から戻って、きょうの「サザエさんをさがして」のテーマは「勝手口」についての話だった。
ミサワホームの商品開発部の話によると、今でも勝手口は半数の家にあるが、昔ながらの使い方はほとんどされていないと言う。
2年前に勝手口をつけるかがチームで話題になったという。
「必要派」は風通しやゴミ出しの用途に便利という利用だった。
「不要派」は床面積が減ることや防犯などを理由に挙げたという。
結局オプションとして勝手口はのこったが、付けた家でもゴミ出しは朝の出勤時に玄関から出したり、食料品の搬入なども裏口に廻るのが面倒になったりして、物置のようになってしまったお宅も少なくないという。
そもそも、勝手口は日本古来にある「ハレ」と「ケ」の発想が住宅建築にあったからだそうだ。
1番日当たりのいい部屋は客間として使う「ハレ」の場で、家族が日常を過ごす「ケ」は北川に集中していたそうだ。
台所も玄関から離れた北側に位置し、家長以外の家族は勝手口を利用することになっていたそうだ。
さらに自家用車のない時代には、びん類や米などの重いものは日常的に宅配してもらった。
そこで、台所に近い勝手口こそ合理的で身近な出入り口だった。
ということで、はずかしながら私も不動産業に30年以上も携わってきていて、勝手口の意味合いを今日知らされた次第。
ただ、中古住宅の仲介をしている経験上昭和50年代前半までの家は、どんな小さな家でも、南側の一番日当たりのいい部屋が客間になっていて、そこに大きな応接セットが窮屈に置かれていたり、一度も開かれたこともないような文学全集や百科事典が並んでいる立派な作り付けの書棚があったりするけど、ほとんどのお宅ではこの応接間が物置と化していた。
昭和60年代に私がつとめていた不動産会社では注文住宅もやっていて、私もたまにであるが新築住宅の注文を受けたことがある。
その頃も、客間を中心にして家つくりを考えるお客様が結構いらっしゃった。
そんな際私は、客間は要らないんじゃないですか。
仕事がらたくさんの中古住宅を見てきたけど、どの家も日当たりの良い一番いい部屋を客間として作っていながら、結局その部屋が物置になってしまっている。
自分の家を作るのだから、その家で生活する自分たち家族が一番いい部屋を造るべきですよ、という話をよくしたものでした。
最近ではあたり前のことになっていますが、ほんの20年前でも「客間」という発想があったのですね。
反面、私の住むこんな田舎町でも親戚や知人とのつきあいが疎遠になってきていることの裏返しなのかもしれないと思ったりもする。
今日の「サザエさんをさがして」からの思いでした。
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