室内で自殺され賃貸住宅の借り手がないということで、遺族が家主や不動産会社から過大な損害賠償を請求されるケースが後を絶たないという。(読売新聞)
それについて、不当な請求から遺族を保護しようと、全国自死遺族連絡会(仙台市・田中幸子代表)などが、近く、内閣府や民主党に法案化を養成する。
連絡会によると、一般に自殺があった賃貸住宅は「心理的瑕疵(かし)物件」と呼ばれ、借り手がつかなくなったり、家賃が大幅に安くなったりするため、損害賠償の対象になる。しかし、最近は遺族の混乱やショックにつけ込み、家主らが改修費などを過大に請求するケースが少なくないという。
例えば、2008年に神奈川県内のアパートで一人暮らしの30歳代の会社員が自殺したケースでは、遺族が家主から部屋全体の改装費用200万円と5年分の家賃の補償金約500万円を請求された。納得できずに弁護士に相談し、200万円を支払うことで和解した。
宮城県内では、アパートで自殺した娘の火葬中に不動産会社が押しかけ、おはらい料や家賃補償として計約600万円を要求され、実際に支払った例もある。アパート全体の建て替え費として1億2000万円を請求されたケースもあった。
いつも思うことだが、民事的な事柄で利害が対立する問題では、一方の意見だけを聞いて、相手側を一方的に悪者にしてしまうことがある。
要するに、今の世の中ではマスコミが味方についた方が勝ちだ。
ここ数年、悪の権化みたいに取り扱われている「追い出し屋」と言われる業種がある。
「追い出し屋」という単語は「追い出される側」が名付けた言葉で、「追い出し屋」は理由もなく追い出しているわけではない。
「追い出し屋」といわれる会社のほとんどは「家賃保証会社」だ。
「家賃保証会社」というのは、入居者の滞納家賃を入居者に代わって家主に支払うことを業としている。
当社も「家賃保証会社」を利用している。
当社が利用している保証会社は、入居時に家賃の80%を支払うだけでその後の滞納家賃の保証をしてくれる。
どこの不動産会社も家賃の滞納には頭と、心を痛めている。
福岡の賃貸管理最大手の三好不動産の社長の書いた本によると、家賃の滞納率は約6%だそうだ。
この本は随分前に出版されたものだから、今はもう少し滞納率が上がっていると思われる。
家賃の滞納率が6%の場合、家賃保証で家賃管理している不動産会社は、管理料6%で管理ををした場合、管理料は立替金でちょうど消えてしまう。
滞納者へはまず電話で連絡して入金をお願いする。
しかし、なかなか思うように入金してもらえない。
何度か電話しても入金してもらえない場合は、文書で通知することになる。
結局は訪問して入金をお願いして、それでもなかなか家賃を払ってくれない入居者もいる。
私は、家賃の集金が非常に苦手だ。
人に督促するというのは楽しい仕事ではない。
家賃が5万円だとしたら、6%の管理料だったら管理料はたかだか3000円だ。
それをいただくために、何度も電話したり訪問したりして、相手に嫌がられているのはわかるが、集金する方も同じくらい傷ついているのだ。
「家賃保証会社」は、そんな不動産会社に取っては救世主、女神様、天使みたいな存在なのだ。
都会には荒っぽい取り立てをする会社もあるのかもしれないが、私たちが利用している「保証会社」は実に穏便に集金をしている。
しかし、再三の督促にもかかわらず家賃を入れない入居者がいるわけで、そんな入居者については退去を促しているようだ。
前にも書いたことだが、リストラにあって仕事が無くなった等の理由で家賃を払えなくなった人に対して、家を追い出すことは非常な人非人みたいに言われるが、入居者が一方的な弱者だとは言えないのだ。
家主は常に強者かというと、そうではない。
家主の立場に視点を変えてみると、家主の方が弱者というケースも少なくない。
潤沢な金融資産、資産を背景に、余裕のあるアパート経営をしている人もいるが、精一杯の借金をしてアパートを建てて経営している人もたくさんいるわけだ。
そんな家主が、家賃滞納で銀行ローンの支払いを滞った場合、銀行は待ってはくれない。
だから、2~3カ月の滞納があり、そのごの家賃支払いの目処のたたない入居者には出てもらって、次の入居者を募集したいというのも同然だろう。
遅れながらでも、少しずつでも支払っていくという姿勢があれば強制退去などは行なわない。
家賃が遅れているのに連絡もくれない、こちらから連絡をとっても返答がない。
そんな場合に退去を求めるのは当然ではないのだろうか。
職をなくした人を保護するために、家賃無しで期限不定で入居を続けさせなくてはいけないという法律ができるとしたら、入居者の滞納家賃については国が保証するとか、せめて滞納家賃のせいで銀行ローンの支払いが困難になった場合には、銀行ローンの支払いを猶予するということにしないと賃借人と、賃貸人の均衡が保てないのではないだろうか。
それた話が長くなってしまったが、賃貸住宅内での自殺の問題は、この家賃滞納と同じことだと思う。
自分の身内が自殺した人にとっては、自殺という悲しい事実には同情する。
しかし実際、自殺した部屋に新たな入居者が現れる可能性は非常に少ない。
不動産業者は、賃貸物件を仲介するに当たっては重要事項説明で物件の詳細の内容を説明する義務がある。
この重要事項説明で、自殺があった賃貸住宅は「心理的瑕疵(かし)物件」として入居者に事前に説明しなくてはならないのだ。
事前にそういった事実を説明して、それを承知で借りる人はまずいない。
そればかりでなく、気の弱い入居者の何人かが退去してしまうこともある。
それに加えて部屋の全面改装も必要になるだろう。
繰り返しになるが、銀行ローンをしこたま抱えた家主にとっては死活問題なのだ。
だからといって、身内が自殺して悲嘆にくれている家族に、不当な請求をすることは許される話ではない。
ただ、銀行ローンに追われて自分が自殺に追い込まれてしまいそうな家主が正当な損害賠償をするというのは理解してもらいたい。
不当な請求から遺族を保護しようと、「全国自死遺族連絡会」などが、内閣府や民主党に法案化を要請するというが、片方に困窮する家主がいるのだということも分かっていただきたい。
「全国自死遺族会」にお願いすると同時に、法案化に携わる政治家と官僚の方々にも、くれぐれも偏狭的な法律になってしまわないようにお願いしたい。
「不当な請求」から「遺族の保護」をするという主旨を重々お忘れなく対処していただきたい。
つい最近も、消費者金融業者が多重債務の全ての原因だとして、「改正貸し金業法」を設立させた。
「消費者金融」が「悪」と決めつけたため、消費者金融の存続が難しくなると同時に利用者の首もしめる結果となった。
新たな借入や、借り換えができなくなった利用者から苦情が出たり、そんな利用者が「ヤミ金」と言われる悪徳金融業者に流れてしまうような弊害を生んでいる。
ある日突然、事象の片面だけを見て、片方を規制してしまって、反対側の人を困窮に追い込むという愚策に陥らないようにお願いしたい。
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