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2010年9月11日 (土)

郵便不正、村木さん無罪

 郵便割引制度をめぐる偽の証明書発行事件で、偽造有印公文書作成・同行使罪に問われた村木厚子被告(労働省の元雇用均等・児童家庭局長)に無罪が言い渡された。

 まったくの冤罪事件でも被告という呼称がつくのは、無罪である当の本人にとっては不本意な呼ばれ方だろう。


 逮捕から454日。

 164日にものぼる拘留期間。

 この事件に限らず、逮捕されてしまうと罪を認めるまでは解放されない。


 以前、布川事件再審決定のときにも書いたのだが、私の知り合いがでっちあげの被害届によって逮捕拘留されたことがある。

 彼は、外界から遮断された異常な空間で執拗に続けられる取り調べで発狂しそうになって、警察側が作成した自白調書に署名した。

 私には、さらにもう一つ身近な人が全くのでっち上げの通報から逮捕・拘留されたのを見ている。


 私は、この事件がまったく事実無根であることを知っていたので、知り合いの新聞社に行き報道を差し控えるように頼んでみた。
 
 そのときの新聞社の答えは、警察が記者クラブで正式発表した事件については報道しないわけにはいかないということだった。

 言外に、警察発表の事件をとりあつかわなければ記者クラブから追い出されるのだというようなニュアンスを感じた。


 もう一つ、私の直接の経験がある。

 30年ちょっと前のことになるが、私が家業の靴屋を手伝っていたときのことだ。

 ある日突然2人の刑事が店に入ってきて、「この男を知っているか」と写真を見せられた。

 逮捕後に警察が撮った正面からと横からの写真のようだった。

 何度か靴を買ってもらったお客さんだったので、私はそう答えた。

 刑事「そのときカードで買物をしただろう?」

 私「はい」

 刑事「こいつは、電化製品やいろんなものをカードで買って換金するカード詐偽をやっていたのだ」
 「靴も高いものを何足も買っているだろう」
 「こいつは最初からカードの金を払う気がなくて買物をしていたのだ」

 私「そうですか。カードで買物をしてもらってましたが、私はそんなことはまったく知りませんでした」

 と答えながら、私は不安になっていた。

 この犯人と言われる人は、私が入っているテナントビルの上階の賃貸マンションの住人で、1、2度昼食をごちそうになったことがあった。

 私は、刑事が私が承知の上でカードで買物をさせたのでないかと疑っているのではないかと心配になった。

 そんな私の気持を察したように、刑事は「心配せんでいい。知らなかったあなたには責任はない」「この男はもう逮捕した」「電化製品やら、いろんなものをカードで買って換金していた」「もともと支払うつもりがないのにカードを使って、カード会社に迷惑をかけている」と言った。

 そして、供述調書(だと思う)を取り出した。

 その内容は、犯人とされる男は代金を支払うつもりもなくたくさんの買物をして、関係会社に多大な被害を与えた。これは許しがたいことであるので厳しく処罰してほしいというような内容だった。

 おどろいたのは、この内容の証言は私の言葉によるものということなのだ。

 刑事は調書を私に読み聞かせ、私に署名捺印をしろというのだ。

 私は、この人にはよく声もかけてもらったし、靴も何足か買ってもらっている。

 それに、何度か食事もご馳走になっている。

 個人的には、まったく悪感情を感じていなかった。

 だから、世の中に害悪をまきちらす極悪人として書かれている調書にサインはしたくなかった。

 サインをしたくないのは、この人が私がこんな証言をしたと聞かされたら激怒するだろうと思ったからでもある。

 靴も買ってやり、何度か食事も御馳走したというのに、恩を仇で返すのかと、しかえしにくるのではないかという不安を感じた。

 それで署名はしたくなかった。

 サインをシブル私に、刑事は早くサインをしろと言う。

 しかしどう見てもその内容は悪意に満ちている。

 こんな内容の調書にサインはしたくない。

 私は、「ここまでひどい人だとは思えないのだけど」とサインを拒んだ。

 すると刑事は「かばうのか!」と恫喝するように大きな声を出した。

 私は、その言葉の強さに恐怖も感じた。

 そして、このままでは知っていてカードで買物をさせたと思われてしまうかもしれないという不安も覚えた。


 サインに応じない私に、もう一人の温厚そうな刑事が「後でお礼参りみたいなことをされることを心配してるんじゃないのか?」「警察が責任をもって、そんなことは絶対にさせないから安心して署名すればいいんだよ」とやさしく言葉をかけてきた。


 それでも迷いがあって、すぐにはサインしなかったのだが、何度かそんなやりとりがあって、結局私はその書類に署名、捺印をした。

 この体験の数年後に、前記したデマの被害届で逮捕された知人の事件の顛末を聞き、冤罪はあるのだなと実感したものだ。

 


 潔白が証明されて村木さんは心から喜んでいた。

 満面の喜びにあふれる村木さんの顔が何度も映し出されていた。


 村木さんは国家公務員だから、すぐに職場復帰ができるだろう。

 しかし、職場から切り離された、1年3カ月という時間は余りにも長すぎる。

 肩書はすぐにでも回復できるだろうが、それま手がけていた仕事につくまでには時間がかかることだろう。

 「私ぐらいの年になると何がやりたいといえる立場ではありません。必要としてくれる職場があればそこで頑張りたいです」

 という村木さんの言葉の重みを感じてほしい。

 今回、余りにもずさんな捜査手法を指摘されているにもかかわらず、検察側は控訴すべきかどうかを検討しているという。

 「これ以上私の時間を奪わないで下さい」と淡々と語る村木さんの言葉の重さを検察は重いいたるべきだ。



 また、今回の事件で、マスコミはいっせいに特捜を攻撃しているが、逮捕前後の自分たちの報道姿勢を思いなおしてほしい。



 「逮捕前後の乱暴な取材はつらかった」

 「マイクとカメラをもったたくさんの方に追いかけられるのはこわかった」

 「夜中まで自宅に押しかけてくるとか、もう少しルールがあってもいいと思った」

 「捜査情報がリアル情報が流れた。それを書くなとは言わないが、それ以外に何を書いてくれたか、考えてほしい」

 「検察からたくさん情報が流れた。それを書くなとは言わないが、それ以外に何を書いてくれたのか、考えてほしい」

 記者会見での村木さんの言葉を、マスコミは深く自分の身に刻むべきだ。



 冤罪事件は、だれも無縁とは言い切れないこ。

 わたしたちも明日、身に覚えのない冤罪で逮捕されるかもしれないのだ。



 心配性の私は、自分が冤罪で逮捕されたらどうしようと思うと不安でたまらなくなる、今日この日です。

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