敷金について
今日、貸店舗の家主さんから、敷金の取扱について相談があった。
10数年前に入居した方が退去するという。
不動産業者を介さずに賃貸借契約をしてなくて私に相談をしてきたわけだ。
相談というのは、敷金は返さなくてはいけないのかということだった。
返さなくてはいけないのかって、返さなくてはいけないに決まっている。
敷金は税務上も預かり金で処理しているはず。
預かっているお金なんだから、返すのはあたり前なのだけど、結構こういった相談は多い。
「敷金はどういう取扱になるのか」と聞かれたので、「特別に何もなければ敷金は返さなければならない」と答えたのだが、「10年以上貸していたので、もとの状態に戻すのには金がかかるから、敷金は返さなくていいのではないか」と言う。
「まわりの人に聞いたら、敷金は帰って来ないものだと言っている」というわけだ。
私に、敷金を返さなくて良いというお墨付きをもらいたいだけの話なのだ。
だから、返すとなるとなんか損をしたような気になる家主が多いのだ。
この方の場合はどうだかわからないが、通常は、敷金は預かり金なのだが、使ってしまっている。
前にも書いたかもしれないが、賃貸借契約は入居のときにはお互い友好関係なのだが、退去の時には敵対するという感じになることが多い。
家主はなんだかんだ因縁をつけて敷金を返さない。
借り主は全額返してもらいたいと主張する。
家主は10年以上貸していて、元に戻すには修理費用がかかるから敷金は戻せないと言う。
借り主は10年以上家賃を払ってきて、払った家賃合計は1000万円を超している。10年も絶てば建物が傷むのは当然のことで、敷金は全額戻してほしいと言う。
このようにそれぞれが自分の権利を主張して、もめることが多い。
私たちはそれを知っているから、賃貸契約を結ぶ前に、退去時の取り決めについて詳しく説明し、契約を締結する。
それでも、退去時にはもめることが少なくない。
さて、どちらの言い分が正しいのでしょうか。
私は、ほとんどの場合、家主の言い分に無理があると思っている。
不動産賃貸業はちょうどレンタカー業と同じ、物件のレンタル業として考えるとわかりやすい。
レンタカー業者は、車を貸して料金をいただく。
汚いままの車を借りるお客さんはいない。
当然車は、中も外もきれいに掃除して借りてもらいます。
そう、借りていただくわけだ。
そして、車は乗ったら消耗するし、汚れもする。
タイヤが減ったからタイヤの消耗料もらいますとか、雨降りに泥道を走って汚したから掃除代をとるなんてことはない。
レンタカー業者は、車の損耗費用や清掃費用をみこしてレンタカー料金を設定しているわけだ。
ただし、車を借りた人が過失で車をぶつけて傷をつけたり、タバコの火でシートを焦がしたりした場合については、その修理費用は借りた人に請求することになる。
貸家業もまったくこれと同じことだ。
人が家を使えば損耗する部分もでるし、汚れもする。
さらに5年10年という期間の経過の中で、自然劣化する部分も多々出てくる。
それを新品の状態に戻して返せというのは、家主の勘違いでしかない。
そもそも日本においては、大昔から概ねバブル期までは、土地も家賃も右肩上がりに上昇し、物件不足から家主が強い状態が続いて来た。
「貸してやる」という考えの家主があたり前の世界で、借りる方は「貸してもらう」という姿勢になりがちだった。
バブル崩壊後土地神話は消え、それに伴って家賃も下落傾向にある。
いまや、賃貸業は「借りていただく」という考えで経営しないと、空き室をかかえて四苦八苦という状況に陥ってしまう時代になっている。
賃貸業でも若い新興勢力の台頭がはめざましいものがある。
経営に行き詰まった賃貸物件を安く買って、きれいにリフォーム・リノベーションをして、借りる人の立場になった運営で満室経営を続けているところもある。
いままでのように、家主が自分は資産家で家を貸してやっているのだという姿勢では賃貸業はやっていけなくなる。
そんな変化に気がつかず、借り手のニーズに合わない経営をしているアパート・マンションは空き室だらけになってしまい、結局若い新興勢力の家主に安く買いたたかれることにもなりかねない。
家主さんにくれぐれも分かっていただきたいのは、は貸家業という商売をしているのであって、賃貸人は大きな買物をしてくれた大事なお客様だということを重々理解することだ。
前にも言ったことかもしれないが、月々5万円の家賃で5年間借りていただいたお客様は、300万円もの支払いをしてくださっているわけだ。
そんな高額な買物をしたお客様だと思えば、退去に際してなおざりな取扱はできるはずがない。
一方の借り主さん達にもお願いしたいことがある。
最近は「家賃を払っているから客だ」という、権利主張の強い借り主の方が少なくない。
しかし、不動産の賃貸借というのは通常の買物とは違って、貸主・借主の相互関係が長期間続くわけだ。
家賃を支払うお客には違いないが、家賃という対価の見返りに住環境を利用できて利便性を手に入れられているという気持をもっていただきたい。
「貸してやる」「借りてやる」の関係ではなくて、「借りていただく」「貸していただく」という関係になってほしいものだと、常々思っている。
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