鹿児島裁判員裁判 「12人の怒れる男」
先日、裁判員裁判で初の死刑判決が下された。
2人の男性を殺害したという事件で、起訴内容は争わず死刑無期懲役を選択する裁判だった。
この事件は、殺害動機の殺害方法の残虐性から死刑が求刑されていた。
動機は、被害者との間に麻薬密輸組織のトラブルを抱えていた被告の上役からの殺害を依頼され、「自分の力を誇示し、覚醒剤密輸の利権を得たいという欲にかられて引き受けた」もの。
殺害方法は、命乞いする被害者をいきたまま電動ノコギリで切断するという残虐きわまりないものであった。
「殺すならひと思いに刺し殺してくれ」と哀願した被害者の恐怖は想像を絶するものがある。
刑を目の前にして、「遺族の意見陳述を聞いて遅ればせながら罪の大きさを感じ、謝罪と反省の意を表している」(朝日新聞11月17日)という。
それは、死刑を目前にした命乞いの言葉なのかもしれない。
被害者は、電動ノコギリを目の前にして、悲壮な思いで命乞いをしたはずだ。
反省という言葉で許されるものではない。
心から反省の意を表するのであれば、自分の命をもって償う以外にないだろう。
私が遺族であったとしたら、同じ恐怖を与えて殺したいと思う。
ニュースを見ているだけの第三者の立場にいても、人を殺したら自らの命をもって償わせるが当然だと思っていた。
しかし裁判員として判決を下す立場に立たされたとき、「死刑」という判決を先頭をきって言い出す勇気はない。
法律の下とはいえ、人を殺すことに手を下すわけだ。
その責任は重い。
死刑という名のもとに、自分が人を殺したという記憶が一生つきまとうことになる。
今回の判決で、裁判長が「控訴を勧めたい」と被告に説いたというが、これは裁判員が死刑を言い渡す苦悩を代弁した言葉ではないだろうか。
昨日(17日)、鹿児島地裁での裁判員裁判で死刑求刑された殺人事件では、被告が全面的に事件の関与を否認している。
「推定無罪」という言葉がある。
被告が有罪と宣告されるまでは無罪と推定されるというのが法の原則なのだ。
しかし現実には、逮捕拘留されるとすべてが「推定有罪」へと動く。
警察や検察は公正無比であり、そこが発する情報をマスコミがそのまま報道し、世間はそれをそのまま受け入れていく。
今まで私たちは、その情報を鵜呑みにして、遠く離れた場所から「有罪だ」「死刑だ」と勝手なことを言っていた。
すべては、警察や検察が正義で動いているという前提だった。
その前提が危うくなる事実をたくさん見せつけられている。
検察が証拠を改ざんした事件は記憶に新しい。
量刑を決めるのにも、何度も涙を流したという裁判員がいらっしゃった。
鹿児島の事件のように、無実を訴える人を裁かなければならない裁判員の苦悩はいかばかりか。人ごとではない。
裁判員制度導入の際に話題になった映画で「12人の怒れる男」という映画がある。
1957年製作、主演ヘンリー・フォンダのアメリカ映画だ。
17歳の少年の被告が実父を殺した容疑での裁判で、陪審員の評議の過程が映画の主題であった
1時間半くらいの上映時間のほとんどが陪審員室というもの。
不良と言われてた少年が実父を飛び出しナイフで殺害したという容疑。
目撃証人もいて、証拠品も、状況証拠もすべて少年の有罪をうかがわせるもが揃っていた。
12人の陪審員の第1回目の評議は11対1で有罪。
日本の裁判員せいどであったら、ここで有罪になってしまったのかもしれない。
アメリカの陪審員制度では全員一致でなければ有罪が確定しない。
ここから1時間半の映画が始まったわけだ。
夏の暑い日で、クーラーもない部屋で陪審員はみんな不機嫌になっていた。
有罪は明白なんだからさっさと有罪にして早く帰りたいという陪審員ばかりだった
ヘンリー・フォンダ演じる主人公のみが無罪を主張した。
それは確定的に無罪を主張したのではなく、「推定無罪」という観点から有罪とは言い切れないという主張だった。
「有罪は間違いないんだから、早く有罪にして帰してくれ」という他の陪審員の剣幕にも屈せず、冷静に事件を分析していく。
その意見を聞き、2度目の評決では1人の陪審員が無罪に変わった。
主人公の冷静な分析と粘り強い説得で、3度目の評決では無罪が4人になり、4度目ではさらに無罪が増え、最終的に一人だけ強引に有罪を主張していた陪審員も無罪を認めた。
暑くて長い一日を終えた12人の陪審員達が、お互いの名前も知らないままに、裁判所を去っていくシーンにさわやかな感動を覚えた。
当時、35万ドルという低予算で2週間くらいで撮った映画だったにもかかわらず、アカデミー賞にもノミネートされた。
賞はとれなかったが、そのとき賞を奪ったのは「戦場に架ける橋」だったそうだ。
裁判員制度を考えるにあたって、ぜひ見ておくといい映画である。
それにつけても、鹿児島の死刑求刑の裁判員の方々の心中を我が身に振り替えて想像すると、裁判員制度のありかたを再検討してもらいたいというのが、私の今日の心境なのだ。
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