悪徳不動産屋日記⑥ 「3度目もウソ」その3
あれから半年以上過ぎた。
先日、ひょっこり近所の『あの方』が来社された。
昨日の私のブログで取り上げた物件(私に賃貸料の相場を聞いて、他の不動産で購入した物件)は、その後ご近所の『あの方』が自己使用していた。
いつのまにか、自分の経営する店の支店として店開きしていた。
近所のことなので、悪徳不動産屋の私としては、見るたびに腹立たしくもあるのだが、「あっしには、関係のないこと」と思うようにしてきた。
そんな私の気持ちなんかはお構いなしに、どの面下げて当社の玄関に足を踏み入れるのだろうと思いつつ、入口カウンターの椅子をすすめる。
近所の『この方』は、こちらから要件を聞くまでもなく、いきなり自分から要件を喋りはじめた。
「実は、○○町の○○さんの店舗を購入して、そこに支店を出してやってきたけど、客層と商店街の立地があわなくて、支店は店仕舞いしようと思っている。ついてはその店舗を貸し店舗に使用と思うので相談に来た」のだと言う。
随分前に私に軽い迷惑をかけ、そのときのお詫びに、今後不動産のことがあったら、すべて私に相談すると言いながら、その口が渇く間もなく、またしても私に参考意見だけを聞いてきて、内緒で他の不動産屋で物件を購入した。
私は悪徳不動産屋だから、こんなお客さんを許す度量はない。
面と向かっては言わないが、こころ秘かに、「金輪際『この方』とはお付き合いしない」と思っていたのだが、『この方』も人の子。
やはり悪いことをしたと気が引けて、貸し店舗募集の依頼をしてきたのだと思って、今までのことは水に流そうと思った。
とはいえ、旧市街地商店街である私の事務所の周辺は「入店者募集」のポスターだらけの、シャッター商店街。
依頼を受けても、なかなか成約困難なのだ。
しかし、恩を忘れずに依頼を受けたことに気分を良くして、「あー、そうですか」と、『この方』の希望条件を聞くことにした。
『この方』は、まず、貸すにあたっての家賃はいくらくらいにしたらいいかと聞いてきた。
いくらにしたら借り手があるのかと言われても、旧商店街に出店しようという話が少ないのだ。
私は、借りる人から見てお得だなという家賃設定にすることで、需要を喚起することしかないと思っている。
それで、近所の『この方』に、希望の家賃の額を聞くと、案の定、高額の家賃を考えている。
そこから30分以上、当地(宮崎県の北端の街、延岡市)の賃貸借の状況をていねいに説明し、貸すにあたっての作戦を伝授した。
近所の『この方』は、私の話を納得した様子で、「いろいろ教えていただいてありがとうございました」とお礼の言葉を発した。
しかし、それに続く言葉に私は唖然とした。
「今、(私に)教えてもらったことを参考に、貸し店舗にすることにしますが、それについてはオタク(当社)に専属で頼まなくてはならないんですか?」と言うではないか。
「3度目の正直」かと思っていたら、「3度目もウソ」だった。
私は怒りを感じることもなかった。
私は、「どうぞ、どこにでも頼んでください」と言うのみ。
数年前までの私だったら、今度『この方』と顔を合せても口もきかなくなるところだ。
今は、ちょっと大人になったので、顔を合せることがあったら、挨拶くらいはすることだろう。
ただし、心の中で「お前を絶対に許さないぞ」と思っうだろう。
私は、こんな小さなことも許せない悪徳不動産屋なのだ。
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