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2013年3月31日 (日)

売買契約の手付金

 先日から商談していたお客様と、中古住宅の売買契約について最終的な打合せをした。

 最初のご案内が10日ほど前だった。

 ご夫婦と子どもさんでご覧になった。

 全員が気に入られた様子だった。

 「もし購入するとなれば、どういう流れになるのですか?」という質問が入り、流れを簡単に説明する。

 不動産屋にとって嬉しい限りの反応だった。

 通常であれば、購入を希望するお客様は、価格交渉をしてこられるのであるが、このお客様は見るからに人柄が良く、価格については触れて来ない。

 私は、契約をせき立てない主義。

 「もし購入を希望されるのであれば、なんなとご相談ください」ということで、その場は分かれた。

 次の日、連絡を取ったところ、親戚に見てもらうのでもう一度見せて欲しいとのこと。

 お客様のご希望で、5日後に再度案内することになった。

 再案内には、親戚の建築関係の方が同行された。

 2時間弱、建物をすみからすみまで点検された。

 親戚の方は建築の専門家だとのこと。

 私があれこれ説明しても、この方の意見に勝てるはずもないので、私は外にいてお客様に自由に見ていただいた。

 結論は買うとのこと。

 ただし、本人に代わって、建築のわかる親戚の方の意見として、結構な価格交渉が入った。

 交渉の価格は、買い手の立場で見ると不法な値引き交渉ではなかった。

 売主さんと折衝し、再度買主さんとの間を調整し、一応価格については合意を得た。

 通常であれば、ここで契約の日程を決めることになる。

 契約日をいつにするか打合せに行くと、検討して明日連絡しますとなった。

 次の日、連絡が入り、「先日同行された親戚の方と、当社に出向いていろいろ説明を受けたい」とのこと。

 ご親戚の方がなんの説明を受けたいのかわからなかったが、物件の資料一式と、物件についての重要事項説明書と契約書を準備した。

 昨日、そのお客様とご親戚の方が来社。

 ご親戚の方から、「字図と不動産の登記簿謄本を見せてくれ」と言われる。

 要望通りに字図と謄本をコピーして差し上げる。

 お客様には、すでに登記簿に記載された内容の説明をしていたのだが、ご親戚の方にチェックしてもらっているのだろう。

 ご親戚の方は現地と字図を照らし合わせて、「この物件は公道に接していないんではないか」と指摘される。

 物件は東側6メートルの公道と、南側2メートルの里道に接している。

 いわゆる東南の角地。

 物件敷地は6メートルの公道側は1メートルくらい嵩上げをしていて、公道側が駐車場になっており、南側の里道を利用して玄関に入るようになっている。

 親戚の方がおっしゃるのは、歩いて玄関に入るのは里道の方だから、里道で建築確認をとっているはずだとのこと。

 建築の専門家というから建築確認の知識があるのかと思っていたのだが、まったくの勘違い。

 「里道が利用できるから、公道側をかさ揚げしているけど、立派に公道に接していますよ。だから、当然、建築確認は公道でとっています」と説明すると、勘違いに気づかれて納得された。

 続いて、ご親戚の方は黙って謄本を見つめだした。

 沈黙が続くので、私はお客様に向かって「ご親戚の方から謄本をご確認いただいているので、私の方から登記簿の内容を重要事項説明書説明しますね」と言って、重要事項説明をすることにした。

 まずは、登記簿による物件の権利関係。そして都市計画法、建築基準法上の制限。

 さらには、契約に関する法律的事項。

 法律的な問題として重要なのが、契約の解除と違約に関する事項だ。

 契約に際して通常は、買主が売主に手付金を交付する。

 これは、間違いなく買います、間違いなく売りますということを担保するための金銭で、買主は手付金を放棄することにより、売主は預った手付金を倍にして返すことにより契約を解除できるというもの。

 違約と似ているのだが、法律的には違約とはまったく異なる。

 手付けは、それを放棄することや倍返しすることによって契約を解除できる権利なのだ。

 契約を解除することによって相手方に損害を与えたとしても、手付金以上の損害賠償を請求されることがないという権利なのだ。

 手付金については、重要事項説明書、売買契約書とも重複して詳しく記載される事項である。

 私は、重要事項説明での手付金の説明にあたって、「手付金は通常売買価格の1割程度のきりのいい金額になるので、今回の契約については100万円ということになります」と伝えた。

 それをそばで聞いておられた親戚の方は、「手付けは50万円でもいい」と助言された。

 本人さんは100万円より50万円の方が安心といった感じだった。

 出す金は少ない方が安心なのだろうが、それは勘違いなのだ。

 いつもなら、ここで私は手付金の意味をもっと説明するのだが、今回はその説明を省略した。

 今回の取引では、売主は希望価格から200万円くらいの値引きをのんでいる。

 私の判断では不当な値引きではないが、時間をかければあと70~80万円は高く売れる可能性はある。

 今回、手付金を50万円入れて契約をした後、60万円高く買うというお客様が現れたら、預った50万円の手付金を倍返しして契約を解除して、60万円高く買う人に売った方が10万円得する。

 預っていた50万円にあと50万円追加して返せば、なんら問題なく契約を解除できるのだ。

 倍返しすることによって50万円損をするが、今の契約より60万円高く買ってもらえば、差し引き10万円得をするというわけだ。

 買主は50万円儲かるわけだが、やっと見つけた気に入った物件が手に入らなくなってしまうのだ。

 手付金とは、そういった意味のお金なのだ。

 この物件をあと100万円以上高く買う人はいないと思うが、あと60万円くらいだったら可能性はある。

 このお客様にも、急かせる意味ではなくもう一人検討しているお客様がいる旨は伝えてある。

 そのお客様が、先に買った人の金額より60万円上乗せした価格で購入申込みをしないとは限らないのだ。

 私は、意味のない不安から手付金を少なくしようと考えるお客様には、手付金の意味合いを説明して、手付け解約にならないような額の手付金を入れるよう助言している。

 仮に10万円の手付金なら、20万円高く買う買手が現れたら、解約されても仕方がないのだ。

 そのときになって、「道義的に解約するなんて許せない。解約は認めない」と騒いでも、どうにもならない。

 これは民放557条で明文化されている法律事項なのだから。

 今日のお客様には、ご親戚の方の顔を立てて説明をしなかったが、契約日程を決める際に、きちんと説明しておくつもりである。

 法律は、知らないよりは知っていた方がいい。

 しかし、中途半端な知識では火傷することもある。

 きちんと法律を勉強することは、自分を守る大きな武器になる。 

 

 

 

 

   

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