悪徳不動産屋日記 土地の価格の相場の相談
午前中のこと。一人の女性が来店された。
60代の、ちょっと生活に疲れた感じの女性であった。
アパートでも探しに来たのかと思って、新入社員に接客をまかせていた。
社員が用件を聞くと、土地の価格について話を聞かせてもらいたいということだったので、私が変わって相手することになった。
「赤池と申します。よろしくお願いします。」と挨拶をして応対カウンターに腰を下ろした。
このところ私は、自分の応対の態度の悪さを反省しているもので、意識的に礼儀正しく挨拶をしたつもりである。
まず、「土地の価格を知りたいのは、土地を売るか買うかされるためですか?」と聞いてみた。
「えっ‥ まあ‥ 先々の話だけど‥ もしかしたら‥ 売るかもしれないので‥‥ その時、売るとしたら、いくらくらいで売れるのかと思って‥」
よくあるパターンだ。不動産屋への警戒心がありありと見える。
売るとか買うとか言うと、不動産屋がしつこく押しかけるとでも思っているのだろう。
お客さんの気持はよく分かる。
なにせ、私は悪徳不動産屋なのだから。
でも、私、しつこい営業とは真逆の悪徳不動産屋なのだ。
私の欠点は、お客さんにしつこい営業をかけないこと。
わかりやすく言うと、お客さんをほったらかしにしてしまう傾向がある。
良く言えば、お客さんの希望にあわない物件を売りつけたり、強引に安く売らせたりすることができないもので、希望に合う物件がなかったり、売却の希望条件が高すぎたりすると、あきらめて一切連絡をとらなくなることが多いのだ。
これは致命的な欠陥で、お客様からは、やる気の無い無責任な不動産屋だと思われることが少なくない。
ただ、仕事に結びつかなくても、相談をかけられると真剣に答えて来た。
反射的に質問に答えてしまって、その後に、どういうことで価格が知りたいのですか?と聞くと、何も答えずに帰ってしまう。
聞きたいことを聞いたら、あとは御用済という態度に怒りさえ覚える。
それで、まずはお名前住所をお聞きして、相談の内容を記入するようにしたいと思って、「相談シート」というカードを作っているのだが、つい即座に答えてしまうことばかりだった。
つい先日、同じ失敗をして苦い思いをしたばかりだったので、このお客様には(正確にはお客様ではないのだけど)、「相談シート」を開いて相談に答えることにした。
警戒心を露にしているので、すぐに名前を聞いても名乗らないだろうと思ったので、まずは物件の所在地を聞いてみた。
「土地の所在地はどちらですか?」
「○○町です」
「○○町は広いですけど、どのあたりですか?」
「いや、だいたいでいいから、○○町の土地の相場を知りたいんです」
○○町は広くて、国道沿いの土地もあるし、山の中の土地もある。
接する道の広さや、周囲の環境や利便性で価格は大きく変わる。
おおまかな場所がわからないと答えようが無い。
○○町は6丁目はまである。
それで、住宅地図を開いて、「何丁目ですか?」と聞いてみた。
「いや、そんな詳しくじゃなくていいんです。○○町の高台です」という。
高台といっても、比較的最近開発された道路の整備された高台の団地もあれば、何十年も前に開発された道の狭い高台の団地もある。
「道路の向きと広さだけでも価格は違ってきますよ」といって住宅地図を差し出すと、「だいたいでいいんです。○○町の取引相場を教えてください」と言う。
「無礼者!私をなんと心得る!私は悪徳不動産屋なるぞー!」と心の中でつぶやいて、「私が承知している○○町の取引事例は、坪当たり30万円のところもあれば、坪当たり5万円のところもあります」と答える。
実際、そのとおりなのだ。
お客さんは「私の土地は高台なんですよ」という。
「わかっちょるわい!(九州弁でわかっている)それはさっきから何度も聞いたわ!」と言いたいのを我慢して、「坪5万円の土地というのは高台の土地でしたよ」と答えてやった。
女性は(悪徳不動産屋の意地でお客さんとは言いたくない)、「えっ!そんな安いの?」と怪訝な顔をする。
「はい、そこは道路に問題があって5万円でした。」と私。
「私の土地は、そんなに条件が悪くないです。15万円くらいはすると思うんだけど」と女(女性とも言いたくなくなった)
○○町の整備されている住宅地であれば、バブルのときには16、7万円までいった。
しかし今は、標準的な価格としては11万円から12万円というところだろう。
しかし、そうは教えてやりたくない。
「○○町で15万円という土地はないと思いますよ」とだけ答えてやった。
実際、ここ数年、○○町の高台で15万円という取引事例は無いのだ。
すると女、「私の土地はもっと高いはず。もっと詳しく教えて」と言う。
それで再度場所をたずねてみるが、やっぱり場所を言おうとしない。
どういうつもりなのだろうか。
場所を教えると、私がその土地を略奪するとでも思っているのだろうか。
少なくとも、私を信用していないのだろう。
自分の名前も素性も名乗らずに、人に名前を聞いてくるようなもの。
もう私も意地。悪徳不動産屋の名にかけて、教えてなるものか。
「場所がわからないものは答えようが無いんですよ」とだけ答える。
それでも女は、あきらめない。
「○○町の土地のだいたいの相場が知りたいのだけど。だいたいでいいのだけど」と繰り返す。
私は、「無礼者!店から出て行け!」と言いたい気持を抑えて、意識的に優しく、ちょっと微笑みながら「何度も言うように、場所がわからないと答えようが無いんですよ」と繰り返し答えた。
2、3度、そんな会話を繰り返し、女は店を後にした。
なんと応対の悪い不動産屋だと思ったことだろう。
しかし、それはしょうがない。私は悪徳不動産屋なのだから。
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