携帯電話が鳴った。
発信者は、賃貸物件の入居者。
先日、灯油ボイラーの調子が悪いという連絡をもらっていたお客さんだった。
ボイラー付け替えの工事が終わったはずなのだが、なんだろう?
この入居者の場合、ボイラーを点検してもらったのだが、メーカー自体も灯油ボイラーの生産を終了していて部品の供給もしていなくて、修理は難しいとのことだった。
私は悪徳不動産屋。
これは家主に新しいボイラーを付けさせるべきだと判断した。
家主がなんと言おうと、絶対に交換させなくてはいけない。
家主にそれを伝える前に、私は、その家にガスを供給しているガス屋さんをいじめてやろうと思って電話した。
「もしもし、おたくがガスを入れている貸家を管理してる不動産屋ですけどね、その家の灯油ボイラーが故障したんですよ。それで、この際ガスボイラーにしようかと思っているんですが、ついては、ガスボイラーを無料でつけてもらえたりしますかね?」
電話に出た事務員さんは、「私ではわかりません」と答える。
当然のこと。
「わからないなら、わかる人に変わってください」と言うと、「折り返し電話します」と返答があった。
では待ってますと言って電話を切ると、すぐに折り返しの電話があった。
今度は男性の声だった。
「電話をいただいていましたが、どういうことでしょうか?」ときた。
また、いちから説明しないといけないのか!と少し腹が立ったが、再度説明する。
ガスボイラーにするので、ボイラー代と工事代を無料でやってくれという私の要請に、電話をしてきた男性は、「無料ですか?私では結論が出せませんので、上司と相談してご連絡します」と言って、また電話は切れた。
すぐに電話があって、無料でガスボイラーをつけてくれるとのこと。
なんとも手間がかかったが、当然のことなのだ。
実は、私の友人がガス会社をやっていて、その会社にガス供給を依頼する条件であれば、無料でガスボイラを付けてくれるのだ。
しかし、それを先に言うのはいやらしい。
ただし、相手が拒否すれば「ガス会社を変えるぞ」とおどしをかけるつもりだった。
なにせ、私は悪徳不動産屋なのだから。
家庭で一番ガスを使うのは風呂なのだ。
灯油ボイラーをガスボイラーにすると、半年でボイラー代のもとはとれるのだ。
それを知らずに依頼すると、当たり前にボイラー代と工事代をとられてしまう。
今までは灯油ボイラーだったが、これをガスボイラーにするのは無料でできる。
あとで、「悪徳だ」と騒ぎになるといけないので、家主と入居者の双方に、ガスボイラーに変えることについて了解をとった。
家主は、貸家にする前は自分が住んでいたので、ランニングコストの安い灯油ボイラーにしていたのだが、貸家にしたのだから、ランニングコストのことは考えなくてもいい。
工事代の負担はまったくいらないのだから反対する理由がない。
入居者にしても、灯油ボイラーは灯油切れを心配していないといけないし、灯油を買いに行く手間もかかる。
灯油の配達もしてもらえるが、すぐには来てもらえないし配達料をとられる。
少々ランニングコストが上がるけど、ガスボイラーにすることに異論はでなかった。
家主、入居者、ガス会社の3者がすべて喜ぶ話で、めでたしめでたしとあいなった。
その後すぐにガス会社にボイラー新設工事の依頼をして、その工事が終わったはず。
このタイミングで電話があるのはなんだろう?
ガス会社が工事に言っていないのが、工事のあとガスボイラーの調子が悪いのかなと思いつつ電話に出る。
すると、「ガスボイラーの工事が終わりました。ありがとうございました」とのお礼の電話だった。
だいたいにおいて、入居者からの電話はクレームの場合がほとんどだ。
スムーズにいっているときに連絡の必要はないからだ。
クレームの処理をして、お礼の電話をもらうということは、めったにないことだ。
ほっとするやら、嬉しいやら。
「それはよかったです」と答える。
ガス代が少し上がるだろうから、「灯油に比べて燃料代は少し上がると思いますけど、灯油を買いにいく手間がないからご容赦ください」と、すこし言い訳をしておいた。
すると、「灯油ボイラーは、稼働中の音がうるさかったけど、ガスボイラーはまったく音がしなくて、静かでいいです。本当にありがとうございました」と、重ねてお礼を言われた。
私はそんなに善意でやったわけではないのになあ。
、
最近のコメント