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2015年2月21日 (土)

悪徳不動産屋日記 10年ぶりの電話②

次の日、先輩から電話があった。

 「(亡くなった)入居者の関係者に、いろいろ聞かれるけど、なにせ初めてのこことでどうしていいのかわからないので、君の電話番号を教えておいたのでよろしく」とのことだった。

 初めてのことは、私にとっても同じことだ。

 何が問題点になっているのかもわからない。

 この先輩に悪徳不動産屋呼ばわりされたこともあるのだが、こんなときは不動産のプロあつかいになる。

 プロというのであれば報酬を支払っていただきたい。

 その仕事において報酬をもらえるのがプロ。

 無報酬でやれっていうことは、私をアマチュアと思っているのだろう。

 入居で報酬をいただいているから、そのサービスだと思ってひきうけた。

 退去に際しての清算で利害が対立するから、ちょっとはもめるかもしれないが、私はお互いの言い分を聞いてやるだけだ。

 そう決めて流にまかせることにした。

 まもなく、(亡くなった)入居者の子供さんが来社された。

 入居の際の契約書を手にしておられる。

 自己紹介もそこそこに、「家主さんから聞いておられるでしょうけど、あとのしょりのことで来たのですが・・・」と言われる。

 そんなことを言われても、なにがどうなっているのやら私にはさっぱりわからない。

 まずは、「この度は突然のことで大変でしたね。少しは落ち着かれましたか?へやの片づけも大変でしたでしょう」と挨拶を兼ねて状況を探ってみる。

 すると、「部屋の荷物も全部運び出して、一応掃除も終わりました。だから、あとの処理をしてもらいたいのですが・・・」

 事件性はなく病死ということで、どうやら葬儀もすませたようだ。

 あとの処理というが、なにをどうしてほしいというのだろう。

 それで、「おたくのご希望は、どういうことですか。」と単刀直入に聞いてみた。

 「すると、今月分の家賃は入れているんでしょうか?」と言う。

 敷金をかえしてもらいたいということではなく、未納家賃を心配しているのか。

 すこぶる善良な方じゃないか。

 これは、もめる話ではない。

 ほっとした思いで、「家主からは家賃の滞納の話は出てなかったですよ。」と答えた。

 すると、「滞納がないのなら、敷金は戻してもらえるんでしょうね」ときた。

 やっぱり、敷金の返還が目的のひとつだったのだ。

 当社は、12年前に1人だけ入居の斡旋をしただけ。

 その後、まったくご縁がなかった。

 家賃の管理を家主がしているのやら、他社に管理を頼んでいるのかもわからない。

 「敷金の話でしたら家主さんに直接聞いてみてください」と答えると、「おたくの会社で入れたのだから、お宅が敷金を返す手続きをしてくれるんじゃないですか」と言う。

 当社から敷金を返してもらえるものと思っている様子だった。

 「いえいえ。家賃の管理をしていれば手続きをしますけど、このアパートの家賃の集金がどうなっているか私は見わからないんですよ。恐らく敷金は家主さんが預っているわけで、当社が敷金を返す筋合いではないんですよ。」と説明した。方。

 相手は私を不親切な不動産屋観たいに思っているようだった。

 悪徳不動産屋としてしてはおとなしくしているわけにはいかない。

 だから、少々語気が強くなっていた。

 「入居の際に手数料をいただいていますが、それは入居のお世話に対する報酬ですよ。

 退去について、今回お話を聞いているのは、サービス業務ですよ。

 敷金を返してもらいたいのでしょうけど、家主としては室内で孤独死されているから、迷惑料をいただきたいと思っているかもしれないですよ。

 今回は亡くなって時間が経っていないからまだしも、亡くなって日にちが経ったり、自殺したりした場合は、高額な損害賠償を請求する家主もいますよ。

 それぞれ言い分があるでしょうが、私がどちらが正しいとは言えません。

 もめたら裁判所に解決を依頼する問題です。

 あとは家主との話し合いでやってください。」

 裁判の事例等もとりまぜて詳しく説明していると、少し不安そうな顔になってきた。

 そこに家主から電話が入った。

 家主からの話は、私の想像通りだった。

 孤独死状態だったから、あとの入居者がなかなか決まらないことが考えられる。

 ついては迷惑料をもらってもいいのではないかということだった。

 私のスタンスは、家主がそう思うのは勝手。

 そう思うのだったら自分で請求すればいいこと。

 それを私に言わせようなんて、悪徳不動産屋を甘く見てもらっては困る。

 「〇〇さん、今、ご親族の方が私の目の前におられますからスピーカーホーンに切り換えました。〇〇さんの希望をそのまま伝えます。」と、電話をスピーカーホン切り換えた。

 すると、少し口調が和らいだ。

 「あとの入居者がなかなか決まらないことになるだろうし、家賃を値下げしなくてはいけないかもしれない。だから、それに対する補償を考えてもらいたい。

 それに10年以上いたから、壁紙とか床の補修にも費用がかかる」という話しだった。

 おまけに、途中で家賃を5000円下げたので、契約書の家賃との差額もらいたいという、理屈のとおらない話しもする。

 入居者が亡くなったのは病死。

 看取る人がいなくて亡くなったが、幸いすぐに発見された。

 借りている人の立場では、すんなり損害金をはらうことはないだろう。

 長々と家主の立場を訴えられる。

 気持ちはわかるが、双方が満足する解決方法はない。

 公平に裁いても、どちらかに多少の不満が残るものだ。

 そんな中ではたらいているのが不動産屋なのだ。

 だから、不満に思う方は不動産屋を悪徳呼ばわりする。

 家主の話をいくら聞いてもしかたがないので、「〇〇さんがそう思われるのわかります。

 ただ、最近の傾向は敷金はすべて戻すというのが原則です。相手の方は、私のところに敷金を戻してもらいたいと言って来ていますよ。

 実際、最近の傾向は敷金は全額戻すという流になってきてますしね。

 今回、家賃の入金状況も、敷金のことも、家賃を下げた件も、私のあずかりしらなないことですので、金銭の処理については直接話し合って決めてください」ということにした。

 家主は、10年以上いて部屋が傷んでいるから、リフォーム費用も要求したいみたいだったが、これがおかしい。

 10年にわたって500万円以上の金をもらっていることをまったく感謝していない。

 500万円もらっているのだから、補修費が20万円や30万円かかっても安いものだ。

 そう思っているものだから、家主に対してもの言葉もつい荒っぽくなる。

 電話の内容は、目の前の借主の親族の方もいっしょに聞いていた。

 それで、電話を切ると、「お聞きのとおりです。私が想像していた通り、家主は敷金を返すどころか損害金までもらいたいということだったでしょう。

 私たちの商売は、いつもこんな人たちの間にはいって仲裁しているのですよ。

 あなたたちが敷金を戻してくれと思うのも、ごもっとも。

 しかし、家主が返せないというのも、これまた当然のこと。

 今回は、ちょうど電話がかかってきて、いっしょに聞いていたからわかったでしょ。

 とういうことで、あとは家主さんと話し合って、お互い納得できるような処理にしてもらってください。

 ここで私の仕事は終わらせていただきます。

 どちらの味方をしても、反対側の人から嫌われるますからね。

 1円にもならなくて、人のもめごとにははいりたくないですからね。」と、突き放した。

 目の前の人は、ただ納得するしかなかった。

 しおらしいその姿を見て、「私はね、今回の話は敷金を全部放棄して、それ以上の損害金を猶予してもらうように納めるのがお互い最良解決方法だと思っているのですよ。

 実際、家主さんが言っていたように次の入居者はなかなか決まらないと思いますよ。おそらく少し家賃をさげることになるでしょう。

 だから、家主が損害金を要求したい気持ちもわかる。

 だけど、あなたに何の落ち度があったわけでもないし、亡くなったお母さんを責める問題でもない。

 それに、失礼だけど、、あなたも損害金を払うような余裕はないでしょう。

 だからですね、そこいらを念頭に置いて、敷金を放棄して、敷金の範囲ですべてを納めるつもりで折衝するといいと思います。

 払えないような損害金を請求されて困ったときは、相談にきてもいいですから。」と言って、御夫婦を見送った。

 ついつい、賃借人にも賃貸人にも、大きな声を出してどなりつける悪徳不動産屋だった。

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コメント

いやー、凄い話ですね。
でも、こういう事はよくある事だと思います。
実際去年63歳の同僚が仕事に来ないので訪ねてみたら浴槽内で亡くなっていました。
また数年前には65歳で定年退職した運転手が自室の寝床で死後しばらくしてから発見されたということもありました。
詳しい病名やその後の家主とのいきさつ等は聞き及んではいませんが、60歳を過ぎた私としては彼らと同じ独り身なので身につまされる重いです。
実際こういう事があると家主は対辺らしいですが、死にたくなくてもそうなってしまうこともあるので、運が悪かったとあきらめるほかないのでしょうね。
どんな職業でもリスクは付き物でしょうから。

 藤按さんコメントありがとうございます。

 凄いのは藤按さんのほうですよ。

 ここ数年で2回も孤独死に遭遇しているのですね。

 私は35年近く不動産業界にいて、孤独死に自分がかかわったのは今回が初めてなんですよ。

 藤按さんがおっしゃるように、どんな職業でもリスクは付き物で、ある意味私はついているのだと再認識させらました。

やはりできることなら遭遇したくないですね。
こういうことを述べるのは不謹慎ですが、
私の場合は遭遇といっても直接私が関わったわけではありませんのでいささか他人事であったのは否めない感でした。
しかし近しい人たちだったのでショックであったのは確かです。
カゾクの方々は悲しみと事後処理に大変な思いをしたことだと思います。

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