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2015年2月11日 (水)

悪徳不動産屋日記 悪質滞納者

先週のこと。
 
  「おひさしぶりー。ここに店を出しちょったっちゃねー。」
 

  威勢の良い声を発しながら、なつかしい女性がドアをあけて入ってきた。
 
 
  なつかしいといっても、色恋沙汰とはまったく無関係の女性だ。
 
 
 20数年前に仕事がらみで知り合った方だ。

 不動産が好きで、結構不動産の売り買いをしておられた。

 その当時ちょくちょく不動産のことで相談を受けたが、私の仕事につながったことはなかった。

 その後ご縁がなくて、顔を合わせることもなかった。

 もう80歳を迎えているはずなのに、見た目も立ち居振る舞いも、以前お会いしたころと変わりが無い。

 ときどきこんなスーパー年寄りがいる。

 私がここに事務所を構えて15年になる。

 「ちょっと寄ってみた」と言っているが、なにか相談事があってのことなのだろう。

 私にとって、あまり楽しい相談ではないことは想像できた。

 というのも、賃貸不動産の管理は他社に依頼しているし、弟さんも個人で不動産業をやっているからだ。

 なにかもめごとをかかえて、私に解決方法の知恵を借りようというところだろう。

 「ほんと、ひさしぶりですね。しかし、まったくお変わり無いですねー。びっくりしますよ」と、お世辞ぬきで挨拶して椅子をすすめる。

 
 「そんなことないわよ。すっかりおばあさんちゃんよ」と、以前と変わらない大きな声で話をされる。

 「隣(のスーパーに)買い物に来たら、あなたの店が目に留まったから、ちょっと寄ってみたのよ」とおっしゃる。

 私がここに事務所を構えて16年になる。

 隣のスーパーは繁盛店だから、この方がここに買い物に来たのが初めてということはないだろう。

 なにか用件があってのことに違いないのだが、しばらくは昔話にお付き合いする。

 「ところでね・・・」

 きたきた。肝心の要件に入るみたいだ。

 「あなたも知っているだろうけど、〇〇町の貸店舗だけどね、家賃が1年以上入っていなくて100万円以上も滞納しているのよ」

 1年以上も滞納させているというのはひどい。

 最悪の悪質借家人だ。

 1年以上滞納していて平気で営業を続けているような借家人は、追い出すにしてもなかなか面倒なことが多い。

 思わず、「なぜ1年以上も滞納させたんですか。1年以上も滞納させるというのは、家主にも責任がありますよ。」と言ってしまった。

 女性は、被害者だと思っている自分が攻められたのだから面白くない。

 管理を息子にまかせていたものだから、こんなことになったのだという。

 滞納に気がついて、女性が直接督促に行ったこともあるようだ。

 「頭にきていたものだからね、督促に行って、店の中で大きな声を出して叫びまくったのねよね。そうしたら、私を年寄りだと思って、近所に惚けておかしくなって大声をだしているなんて言ってるのよ」と、ちょっと興奮気味に話しだした。

 悪質滞納者はよくないけど、店舗の場合、中の設備や造作は入居者のものだし、退去させると収入がなくなってしまうし、なかなか簡単にはいかないですよ。それにしても1年以上とはひどい」

 私には、まったく関係の無い話だし、滞納家賃の集金も退去についてもかかりあいたくはない。

 当然、入居させた不動産業者や弟さんにも相談した上の話なのだろう。

 仕事として私に依頼したいと言うことでもないようで、私ならなにかいい方法が聞けるのではないかというところだろう。

 本音は早くお引き取りねがいたいのだが、昔なじみなのでそうもいかない。

 「1カ月分の家賃を払えない人に、まとめて1年分払えといってもなかなか難しい話でしょうね。滞納分をまとめて回収するのは不可能にちかいですよ。」

 「もうひとつは、法的に手続きをとって退去させることもですが、法的にやると時間も費用もかかりますよ。

 なんとか退去させたとしても、次の入居者が決まるのには相当時間がかかりますよ。
現実問題としては、根気よく請求を続けて滞納分を少しずつ追いつかせるしかないですね。」

 余り深入りしたくなかったが、まったく無視するわけにはいかない。

 一定の助言をしてあげようと思って、「1年以上も滞納していて、額が100万円を越しているというけど、一カ月の家賃はいくらですか?」と聞いてみた。

 すると、なんと、「家賃はいくらか知らないわよ」と言うではないか。

 家賃も知らないということは、滞納額も性格ではないだろう。

 敷金や礼金とかの契約の内容もまったく承知していない。

 こんな話しに掛かり合ってはいられない。

 「入居者に話をするのに、家賃も知らないのでは話しにならないですよ」と、少し口調を荒らげることになった。

 そんな私の気持ちを察したのか、「はらが立つから売ってしまおうかとも思うのよ」などと言う。

 なかなか微妙な言い回しである。売るという話を餌に、私に食いつかせようというのだろうか。

 売ることを前提として解決を依頼されるのであれば、不動産屋としての仕事になる。

 1年以上もの滞納があって、督促しても家賃を入れないというのであれば、賃貸借契約を維持できないだろう。

 法的にも退去を求めることができる。

 家主がそこまで決心してかかれば、悪質入居者も家賃を入れだすかもしれない。

 仕事として依頼をされるのであれば、楽しい仕事ではないが受けることも考えなくてはならない。

 「売却を前提にして交渉してみますか?」と打診してみると、案の定「今売ると大した値段では売れないものね・・」と、歯切れの悪い言葉。

 やはり、知恵だけ拝借ということなのだろう。

 それとも、不満やグチをきいてもらいたいだけなのだろうか。

 悪徳不動産屋としては、そろそろお引き取り願いたい。

 そこで、「不動産をやっている弟さんに、集金を依頼したらどうですか」と言ってみる。

 「あの子は頼りないから」と言う。

 私を頼りにしては欲しくないから、「集金に関しては、私より弟さんの方が迫力があって適役だと思いますよ」と、話を切り上げることにした。

 その雰囲気を察して、「弟に話をしてみようかね」と言って、お引き取りくださった。

 不思議なもので、20年間1度も会うことのなかったこの女性に、買い物に行った文房具店でお会いした。

 
 「こんにちは。会いだすと逢うものですねー。」と声をかけてみた。

 「ほんとにねー。不思議だわねー。」と彼女。

 「ところで、先日の話し、弟さんに相談されましたか?」と聞いてみた。

 すると、「あーー。あの件ね。あの後、会社に戻って事務員に家賃のことを聞いたら、このところ2カ月分ずつ家賃を入れてきているということだったわ」と、平然と言うではないか。

 私に対するお詫びの気持ちは全くない。

 あの時、確認もせず家賃督促の仕事を引き受けていたら大変な自体に追い込まれていた。

 またしても、善良なる消費者の所業のに脅かされる悪徳不動産屋なのであった。

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