悪徳不動産屋日記
今日も朝から予定はつまっていた。
そこに、開店と同時に電話が入った。
若い女性の声であった。
「△△アパートの入居でお世話になった鈴木(仮称)といいますけど、わかります?」
アパート名と名前ですぐにわかった。
新婚さんで、旦那さんも20歳くらいだった。
旦那さんは童顔で、私から見ると、可愛い男の子という感じだった。
奥さんはというと、私の娘より若いのだが、男心をくすぐるような色気のある女の子だった。
印象深いカップルだったので、すぐに思い出した。
まだご主人が車の免許を持っていなくて、駐車場の無いアパートを借りてもらっていた。
ご主人が運転免許をとって、駐車場でも必要になったのだろうと思って用件を聞くことにした。
「ああ、覚えてますよ。どうかしましたか?」と、私が言い終わらない内に、「相談にのってもらえますか」と聞いてきた。
ひごろ無愛想で不親切な悪徳不動産屋なのだが、悲しい男のサガで、かわいい女の子には甘くなる。
「なにかあったんですか。わかることだったら、なんでもいいですよ」と、優しく答える。
すると「法律的なことなんですけど、いいですか?」と言う。
法律的なことは人よりは詳しいと思っているが、どういうことだろう。
一番多いのは金銭的なことだが、近隣とのトラブルなのかなと思いつつ、「わかる範囲であれば、なんでも教えてあげるけど、どんなこと?」と聞いてみた。
すると彼女は、ためらうこともなく、あっけらかんとした口調で「浮気の問題なんです」と言う。
「えっ!浮気?」と、二の句がつげないでいる私を無視して彼女は続けた。
「浮気の慰謝料のことなんですけど」
慰謝料?それは私の分野ではない。
「どういうこと?」と聞く私の反応の鈍いことを察知したのか、さらに続ける彼女の言葉に、私は唖然としてしまった。
「わたしが浮気したんですよ。旦那が慰謝料を請求するとい言っているのですけど、慰謝料の相場はいくらくらいですか?」というのである。
「えっ?あなたが浮気をしたの?そして旦那が慰謝料を請求するということは離婚をするってわけ?」
私の頭は混乱した。
「違うんですよ。旦那が相手の男に慰謝料を要求するって言っているんです。こんなとき慰謝料の相場はいくらくらいなんですか?」
旦那が慰謝料をとるための相場を聞いてくるというのはどういうことだ?
これは手のいい美人局(つつもたせ)なのか?
ますます私の頭は混乱する。
こう見えて(どう見えているかはわからないが)、私は男女の関係において身綺麗に生きてきている。
まったくの不得意分野である。
「相場といわれても、相手の立場とか、浮気になった状況とか、いろいろあるから、一慨にこれといって決まった相場はないと思うよ。
旦那としたら許せなくて、何百万円も請求したいだろうけど、一般的には浮気の慰謝料は、せいぜい百万円くらいのものだよ」と答えた。
すると、「浮気が原因で離婚しない場合と、離婚する場合で慰謝料は違ってくるんですか?」と聞いてきた。
正直、私にはわからなかった。
私は、悪徳だが嘘はつかないことを信条としているので、知らないことは知らないと答える。
それに対して彼女は、「ネットで調べたんだけど、離婚しない場合の慰謝料は100万円くらいが相場で、離婚する場合は200万円が相場だとあった」と言う。
いまやネットの世界。
ネットであれこれ調べて、私に確認をしてきたというわけだ。
離婚した場合と離婚しない場合で慰謝料の額が変わってくるというのは初耳だが、浮気の慰謝料がテレビの法律番組で取り上げられているのは何度か見たことがある。
それによると、浮気の慰謝料は50万円から100万円程度だった。
「うーん。そんなもんだろうね」と、曖昧に答える私に、彼女はさらに質問をぶつけてきた。
「浮気相手はまだ10代の学生なんですよ。未成年の場合はどうなるんですか?」
ここにいたっては、私は「僕にはわからないなあ」と答えるしかなかった。
まだ幼さが残っているのに色気があって、私もちょっとときめきを感じた可愛い娘だったのに、なんとも衝撃的な朝の出だしであった。
今日も忙しい!
気を取り直して仕事にかかった。
« 体調はよくなりつつある | トップページ | 悪徳不動産屋日記 台風からの贈り物 »
「日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事
- マゴロス(2022.08.14)
- 墓掃除(2022.08.13)
- 山の日(2022.08.11)
- 酷暑を吹っ飛ばしてくれる大谷翔平(2022.08.10)
- 今日が終る(2022.08.09)
「05不動産情報館日記」カテゴリの記事
- 悪徳不動産屋日記 100パーセント儲かる計画なら銀行へ(2022.08.03)
- 悪徳不動産屋日記 これは不動産屋の仕事ではありません(2022.06.08)
- 悪徳不動産屋日記 写真は同じ?(2022.06.07)
- 悪徳不動産屋日記 連絡をしない不動産屋(2022.06.06)
- 悪徳不動産屋日記 負うた子に教えられ浅瀬を渡る(2022.04.14)
コメント