悪徳不動産屋日記 買い付け証明
朝、出社してすぐに電話が鳴った。
発信者は不動産会社の社員さん。
この社員さんには、当社の物件にお客さんをつけてもらって、明後日売買契約予定になっている。
物件は中古住宅で、最初の案内で気に入ってもらって、そのあと2度見てもらっている。
二度目の案内で購入を決められたのだが、大幅な値引き交渉の打診をしてこられた。
不動産の売買においては、1円でも高く売りたい売主さんと、1円でも安く買いたい買主さんがしのぎをけずることになる。。
当地(宮崎県の北端の街・延岡市)の場合、現在、買手市場の傾向があり、買手が大幅な値引きを言ってくることが多い。
だから不動産屋としては値引き交渉には慣れているのだが、いやがる売主さんを説得して値引きの了解をとっても買わないお客さんもいる。
それで、この値段になれば間違いなく買いますよという意思表示の証として「買い付け証明書」を差し入れてもらって、売主さんと価格交渉をすることが多い。
「買い付け証明書」には、購入希望価格と署名捺印をしてもらう。
今回の商談も、私の想定を超す価格交渉になりそうだったので、買い付け証明書を書いてもらってから売主さんと交渉することにした。
買い付け証明書に記載された価格は、私の想定を下回る価格だった。
それをもって売主さんに交渉に行った。
その数字を見て、想像どおり、売主さんは気分を害した表情になった。
確かに少し不満な価格ではあるが、この価格を了解して売ったほうがいいと判断したから私も交渉を受けたのだった。
このお客さんは10年前に一度取引をした方で、悪徳不動産屋であるはずの私が、なぜか信頼関係を築いていた。
それで、結局私の話を納得していただいて価格の了解をもらった。
価格の合意ができたら、次には売買契約を提携することになる。
契約予定日も買い手の希望の日時にした。
そして買手は、さらにもう一つ追加の条件を出してきた。
きもちよく引っ越したいから、庭木の剪定と室内のクリーニングをしてくれというのだ。
費用としては10万円くらいのものではあるが、それを含んでの価格交渉のはずであって、売主にとってはさらなる値引きと同じことだ。
嫌がる売主を説得して、しぶしぶ承諾をもらって契約の日時まで決めた後に、さらなる値引きの話はできない。
しかも契約予定は明後日。
最悪この分の費用は私がみることにして、明後日の契約をする予定にしていた。
知り合いの造園屋さんに事情を話したところ、今なら時間が空いているからと、昨日、格安で剪定をしてくれた。
そして今朝の電話。
なんと、契約キャンセル。
私は悪徳不動産屋であるが、こんなとき相手を攻めることはしない。
しないというよりも、できないのだ。
こう見えて(どう見えているかはわからないが)気が弱いのだ。
悪徳不動産屋がミスをすると、けちょんけちょんに責められるのだが、一般消費者は自分が約束を破ることには肝要なのだ。
一般消費者が約束を破るときは、常に正当なる理由がある。
悪徳不動産屋は、いかに正当なる理由があっても約束を破る事は許されない。
そんなはざまで生きてきたから、私のような皮肉屋が育ってしまったのだ。
いちばんつらいのは、売主さんに報告する事。
昨日、説得には時間がかかったけど、私の話を納得して了解したあとはすっきりした顔をしておられた。
売れるまでに思いの外時間がかかってしまって、それに決着がついたことで安堵されたようだった。
それが昨日の事。
売主さんの心情を思うと、報告するのをためらってしまう。
それで朝の時間は遠慮した。
昼御飯がすんで、一段落した時間をねらって報告をしようと思ったのだが、なかなか電話ができなくて、ようやく4時過ぎに報告をした。
長い長い一日であった。
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