悪徳不動産屋日記 家賃滞納で強制退去
いきなりお客さんが入ってきた。
私の事務所は全面ガラス張りで外が見渡せる。
たいていのお客さんは、入り口でいったん立ち止まり、一呼吸おいてドアを開けて入ってくる。
その呼吸が伝わってくるので、ドアが開いて入って来るときには応対の態勢を整えて対応できる。
それにもかかわらず、いきなりという感じで入ってくるお客さんがいる。
今日のお客さんがそうだった。
このタイプのお客さんは、入店と同時に自分から大きな声で用件を言ってくることが多い。
今日のお客さんもそうだった。
「ちかくに、敷金礼金がなくて安い貸家はないじゃろか?」
70歳くらいの女性である。
気の弱い悪徳不動産屋である私は、もめごとになりそうなお客さんを直感的にかぎ分けてしまう
いやな予感。訳ありに違いない。
もともと現在、当社は賃貸物件の取り扱いが少ない。
他社の物件も紹介できるのだが、最近のお客さんはネットで調べつくしているし、その上で数業者回って、それ以外に掘り出し物はないかという感覚で依頼を受けても、ご希望には沿いかねる。
お客さんによっては、わけありであったり問題を抱えていて、他業者で断れたあげくに、どこか入り込める物件はないかと部屋を探しに来ることもある。
こんな場合、当社は賃貸物件の取り扱いは少なくて、余りやっていないということでお断わりしている。
今日のお客さんが、そうだった。
一瞬で、「わけあり」と感じた。
それでいつものごとく、「当社は賃貸物件の取り扱いが少なくて、敷金礼金無しの物件は持っていないんですよ。」と伝えた。
すると、「探してもらえないの?」と、ちょっと荒々しい口調で聞いてきた。
「申し訳ないんですけど、当社は賃貸の仕事はあまりやっていないんですよ。」と言うと、「おたく不動産屋なんでしょ?」「不動産屋なのに貸家をやってないの?何をやってるの?」と、突っ込んでくる。
「はい。当社は不動産の売買を中心にやっているんですよ。お役に立てなくて申し訳ないですね」と説明した。
すると、「不動産会社なら、こんな場合どうなるかわかる?家主からこんな手紙が届いたけど、私は素人だから意味がわからないのよ」と言いながらバックから封筒を取り出した。
「今月中に退去しろというのだけど、ここにお金を払えという計算が書いてあって、その意味がわからないのよ」
私が椅子を勧めたわけでもないのに勝手に椅子に座り込んで、封筒から書類を取り出した。
見ると、家賃を滞納していて退去を迫られているのだ。
「お客さん、家賃を滞納しているんですね?これは、家賃を滞納しているから退去しろということでしょう?」
「滞納といっても2カ月滞納しただけよ。それですぐに出ないといけないの?」
なんという言いぐさだろう。
法律的に言えば、2カ月の滞納で即座に退去を強制はできないだろう。
私であれば2カ月滞納で即座に退去を求めることはしない。
しかし、厳しい家主さんは退去を求めることもあるだろう。
こんな場合、法的にこのお客さんを守ってやることもできるのだが、私は悪徳不動産屋。
こんな態度では助けてやる気にはならない。
お引き取りねがいたいなー、と思っていたら、勝手にテーブルに拡げた文書を示して、「ここにいろいろな金額が書いてあるけど、なんでこんなに払わなくちゃいけないかわからないのよね」と私に説明を求めてくる。
未払い家賃と違約金の請求である。
請求金額の内訳に、延滞利息とか督促手数料とか家賃以外の項目がある。
未払い家賃以外の金額まで、なぜ払わなければいけないのかと、私に声を荒らげて不満をぶちまける。
ここにいたって、ここまで大人しく話しを聞いてきたが、私も、ちょっと大きな声で話しを制した。
「そもそも、家賃を払わないあなたが悪いでしょう。だから家主さんは怒って、出て行ってくれと言ってるわけですよ。すぐに出ないと行けないかどうかと聞かれても、縁もゆかりもない人たちの喧嘩に、私はかかりあいたくはないですね。来るところを間違ってますよ」
すると、「すぐに出らんと、いかんちゃろかい(いけないのだろうか)。出ていくところもないのに、どうしたらいいっちゃろかい(いいんだろうか)」と困った顔になった。
相手は70歳のおばあちゃん。
おそらくは一人暮らしなのだろう。
私は悪徳不動産屋ではあるが、途方に暮れたその姿を見ると、冷たく放り出すことはできない。
こんなことを教えると、悪徳入居者に知恵をつけることになるので言いたくはないが、 法的には、2カ月の滞納で強制退去を求められても従わなくてもいい。
どう対抗したらいいかは、悪徳入居者が見るといけないのでここには書かない。
態度が悪かったから、私の口から教えることはしたくはないので、裁判所に相談に行ってみるように助言した。
裁判所の職員は公務員。
裁判所の職員といえども、法律に無知な部署で働く人もいるが、法律に詳しい部署もある。
こんな簡単な問題なら、答えを出してくれる人がいるだろう。
国民だから遠慮なく公務員さんに頼ってみることだ。
私は悪徳不動産屋。ただで知恵を借りようなんてのはお断り。
ただし、この悪徳不動産屋、褒められると弱いし、頼られることにも弱い。
困って助けを求められると、ほいほいと助けてしまう、情けない悪徳不動産屋なのだ。
それにしても善良なる消費者様は怖い。
今日だって、アパート探しを断ったから事実がわかったのだけど、滞納して退去を迫れていることを隠して、善良なる消費者として部屋探しをしているのだからなあ。
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