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2016年7月 3日 (日)

延岡弁のこと

 昨日の話しの中に出てきた宮崎弁のこと。

 宮崎弁と言ったけれど、当地(宮崎県の北端の街・延岡市)の言葉は延岡弁。

 訛りは随分ちがっているが、基本的な単語は同じ。

 そして、どちらも無アクセントなのも同じだ。

 そもそもアクセントという発想が無くて、アクセントを聞き分けることもできない。
 
 それなのに、当地の人々は自分の訛りが酷いことにまったく気づいていない。

 みんな、延岡弁は標準語に近いと思っている。

 私もそうだった。

 ときどき方言を指摘されることはあったが、概ね標準語を喋っていると思っていた。

 そんな思いがひっくり返ったのは、大学に入ってすぐのフランス語の講義のときだった。

 先生の後に続いて教科書の文章を声を出して読んで、先生に指名されたものが、それを訳するというやり方だった。

 その日、私が指名されたのだが、私は予習をして来てなかった。

 意味はさっぱりわからない。

 どうしようかと口ごもっていたら、隣に座っていた男が私の方に、さっとノートを滑らせてきた。

 見ると回答が書いてある。

 その男は、さらに親切にも、「その日は朝から雨だった」というところを指し示してくれた。

 「その日は朝から雨だった」

 ほっとして、そう答えた。

 教授は、「君の田舎はどこだ?」と聞いてきた。

 「宮崎です」

 「宮崎では、アメが降るのか?東京じゃ、アメは食べるものだよ。降るのはアメだろう?」

 教授はそれ以上のことは言わず、私は、その言葉が理解できなかった。

 ただ、教室にいるみんなが一斉に笑ったので、アクセントの間違いを指摘されているんだろうなということがわかった。

 教授が言ったのは、「宮崎では、飴が降るのか?東京じゃ飴は食べるものだよ。降るのは雨だろう?」ということなのだろう。

 そういえば教授は、「アメ」という単語を強く発音していた。

 しかし、悲しいことに私には、その違いがまったく聞き分けられないのだ。

 授業が終わって隣の男に、「雨と飴の、アクセントの違いを意識して喋っているの?」と聞いてみた。

 聞かれた男は、私の質問の意味がわからないというような顔をしていた。

 「意識はしてないけど、普通に使い分けてる」ということのようだ。

 まわりにいる同級生たちに聞いてみたのだが、アクセントを使い分けてないのは私だけであった。

 全部の単語に決まったアクセントがあるというのは衝撃的な出来事だったが、アクセントが間違っていても困ることはないだろう。

 そのときは、そう思ってそれ以上深く考えなかった。

 しかし、その日私は、アクセントの重要性を思い知らされることになった。

 それは昼休みの出来事だった。

 学食で昼食をすませ、同級生達6~7人と連れ立って近くの喫茶店へ向かっていた時のことだった。

 空にきれいな虹がかかっていた。

 私は、空を指さし「あっ。虹だ」と声を出した。

 すると、一緒に歩いていた全員が腕時計に目をやった。

 「何、言ってんだよ。まだ1時過ぎじゃないか。」と、全員が私を非難の目で見た。

 「違うよ。虹だよ。虹。」

 私は、空を指さした。

 すると、「あれは虹だろう。お前が2時だなんていうからびっくりしたよ。2時だと次の講義に遅刻だからな」

 いっしょに歩いていた連中は、みんな2時からの講義を受ける予定になっていたので、私の「虹だ」の言葉を「2時だ」と勘違いして、びっくりしたというのだ。

 立ち止まって空を指さして、「ニジだ」と言ったというのに、全員見事に自分の腕時計に目をやった。

 フランス語の先生に言われたときには、そんなに重大に感じなかったが、「虹だ」で全員が時計に目をやったという出来事は、私にとって衝撃的な経験だった。

 英語とかフランス語とか、母国語と違う言語であれば、一から学ぶので勉強すれば確実に身についていくのだろうけど、下手に長年使ってきている言葉だけに、それを全部覚え直すことは難しいのだなあ。

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