悪徳不動産屋日記 固定資産税の起算日のもめごと
今日、ちょっとした取引があった。
土地建物の売買で、売主は県外の法人様だった。
この商談の経緯で、これだから人間は面白いという話があった。
この商談は、売りたいという物件ではないものを、私の古いお客さんの依頼で、こちらから売却の持ちかけをして、なんとか売買にこぎつけたという取引だった。
もともと売りたいとか、売らなくてはいけないという状況の物件ではなかったため、買収を依頼したお客さんと打合せをした際に、所有者(売主)にとってある程度好条件を提示しないといけないということは理解してもらった。
所有者(売主様)にとってはまったく想定外の話で、最初はまったく話に乗ってもらえなかった。
それで、気持ちが動くような条件を提示して商談を重ねていって、なんとか売る方向になった。
売る方向が決まれば、次に、価格をつめていき、価格、条件等なんとか合意に達した。
売主様が遠方なので、合意に達するまでは電話でのやりとりになった。
ある程度条件が煮詰まった後、売買契約にあたって、重要事項説明書、売買契約書を作成し、それをFAXして内容を確認し、追加条項、訂正事項とうの修正をして契約するという段取りにした。
そこそこ高額な取引になるので、一度私が先方にお伺いして最終確認をして契約をするつもりであったが、FAXのやりとりで何度か売買契約書、重要事項説明書を修正して最終的に仕上げたものに、先に買主さん側の署名捺印をしたものを先方に郵送して、それに売主さんが署名捺印するということになった。
私は、何度かFAXでやりとりし、最終的に確定した内容で契約書と重要事項を作製した。
仕上がった重要事項説明書、売買契約書を売主様に説明し、先に署名捺印をもらった。
そして、その契約書を売主さんに送る手配をしていたとき、売主さんの担当の方から電話が入った。
固定資産税の起算日はどうなっているのか、というのである。
この企業様は宮崎県にもいくつかの事業所をもっておられて、宮崎県では1月1日起算日という契約が多かったが、先方の会社の取引では4月1日を起算日として契約をしているというのである。
先方としては、いつもは4月1日を起算日としているのだが、今回宮崎の業者(私)との契約だから1月1日になっていたのではないかという確認と、訂正をお願いしたい旨の電話だった。
しかし、売買契約書のひな形を送って、それを元に訂正、修正を加え、価格も摺り合わせて契約条件を確定したあとの話だ。
1月起算日を4月起算日とすると、買主の固定資産税の負担が数十万円増えることになる。
何百万円単位で価格交渉をしてきて、その途中であれば数十万円の調整は可能であったかもしれないが、すべて決定した後での数十万円の負担増を納得してもらうのは容易ではない。
私が、固定資産税のことを余り需要に考えていないで商談していたのであれば、私が旧知に陥ったところであった。
しかし、私はこのことを含めて、慎重に契約書を作製し打合せをしてきていた。
ひな形を先方に送り、相手方はそれを充分吟味し、役員会議にもかけて了承をもらった後の最終案で契約書を作製し、買手には重要事項及び契約書を全部説明したあとの話だ。
それに私は悪徳不動産屋。動じることはない。
「今からの訂正は不可能だと思います。そのために前もって契約書をお送りして確認してもらい、修正、訂正するべきところは訂正しています。固定資産税の起算日についても、非常に目立つ形で明記しております。なんとか1月1日起算日ということで契約をお願いします。」と答えた。
いまさらこの商談を壊わすことはないだろうけど、万が一数十万円のことでこの話が壊れることになったら自分がその分泣くか、などと思っていた。
しかし、そんな不安は一瞬だった。
「そうですよね。無理ですよね。しかたないですね。」
いとも簡単に担当の方は引き下がった。
そのあとにつぶやいた担当者の方の言葉がなんとも心やすらぐ話だった。
「当社は結構不動産取引をしてきているんですよ。その経験で、こちらでは(福岡、本社は大阪)固定資産税の起算日はいつも4月1日ということでやっているんですが、宮崎ではなぜか起算日が1月1日ということになってるんですよね。変だなとは思っていたけど、宮崎では不動産を買うことばかりだったから、起算日が1月1日の方が得だから何にも言わずに1月1日起算日での取引をしていたんですよ。でも、今回は当社が売る方だから1月1日だと損をするから、4月1日にしてもらいたかったんですよね。うっかりしてました。ここは宮崎でしたものね。」ということだった。
宮崎での1月1日起算日はおかしいと思いつつ、自分が得をするから黙っていたが、今度は損になるから4月1日にしてくれと言わなければいけないと思っていたけど忘れていたと、悪びれることなくのたまわった。
なんと人間味のある話ではないか。
出す金は一円だって出したくないが、もらう金は1円だって多い方がいいというのが人の常。
しかし、悪徳不動産屋をみくびってはいけない。
こうみえてしっかりしているのですぞ。
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