不動産業をやっていて実に厄介に感じるのが、相続登記をせずに放置している不動産だ。

 売却の依頼を受けたものの、数代にわたって相続登記をしていなくて、相続人が見つからないという物件も少なくない。

 相続権のある相続人が亡くなっている場合その子供が相続権者となるので、数代前にさかのぼる相続登記が必要な場合は、親戚づきあいのない人の承諾と印鑑が必要になる。

 山林や耕作放棄地となっている農地などの換価性の無い土地は、相続登記をしないまま放置されていることが多い。

 国が行っている、土地一筆ごとの所有者などを調べる地籍調査でも所有者が不明の土地は全国の約2割に上っている。

 所有者がわからないと、その土地のみならず、隣接の土地を売却する際にも境界線の確定ができずに取引できないという事態も起こる。

 また、再開発や公共事業の支障ともなっており、法制審議会の部会が2019年3月から審議してきていた。

 審議会が昨日、相続や住所変更時の登記を義務づけ、違反すれば過料の対象となることなどを内容とする法改正を川上法相に答申した。

 その中には、所有者の申請により所有権を国庫に帰属させる制度の新設も盛り込まれており、答申をもとに法務省は民法や不動産登記法の改正案をまとめ、今国会での成立を目指すとしている。

 答申では土地を所有者から取得した相続人に、取得を知った日から3年以内の相続登記の申請を義務づけ、違反への罰則として行政罰である10万円以下の過料を定めている。

 まずは、早急に僧俗登記の義務化を法制化してもらいたいものだ。

 ただし、所有者の申請により所有権を国家に帰属させるという制度については、一般国民が考えるほど簡単にはいかない厳しい条件をつけてくることが想像できる。

 国に土地を引き取ってもらうためには、土地に建物や土壌汚染が無いこと。担保が設定されていないこと等の要件が付けられる。

 さらに、10年分の管理費相当額を納付することも条件になる。

 すべて解決のように見えるが、この法律には問題点がたくさん残っている。

 相続登記をするには、相続登記にかかる登録免許税と相続手続きを依頼する司法書士の手数料等数万円から数十万円の費用がかかる。

 金銭的に余裕のない人が買い手のいない土地を相続する場合にはその費用が重荷になるだろう。

 国に引き取ってもらうにも10年分の管理料相当額を支払わなくてはならないというのでは、相続登記費用以上の費用になる。

 税金の納付についてはすでに物納という制度があるが、納税者が物納を希望して税務署にそれを認めてもらうのは至難の業なのだ。

 端的に言うと、売りやすくて処分が簡単な不動産以外の物納はほぽ認めてもらえない。

 相続した不動産を売却して税金を払おうと思っても、売れないから税金の代わりに土地を引き取ってくれということになるのだが、すぐに売れそうな物件以外は物納は認めてもらえないというのが通説だ。

 土地の所有権を放置させないためには、相続登記をしようにも金銭的に余裕がない人を救済する方法も、今後早急に検討していただかないと、経済的貧者に属する国民にとっては、困窮への後押しとなる法律になってしまう。

 どうしても相続早期ができないという申請の窓口を作り、経済的に相続登記が困難と認められる場合は、相続登記の登録免許税の減免と相続登記手続き費用を国が援助するという法案も検討してもらいたいものだ。

 私が金儲けの下手な悪徳不動産屋のせいか、法律を決める人たちが真の弱者と言われる人への対策が欠けているように思えてならない。