悪徳不動産屋日記 嫌われて感謝もされず無報酬の家賃交渉
昨日、当社で管理している貸店舗の賃借人から電話が入った。
いきなり、「ちょっとお会いしてお話ししたいことがあるのですが、お時間をとっていただけませんか」とのこと。
その一言で、予知能力にたけている私には話の内容はわかった。
家賃値下げ交渉に違いない。
入居者から電話があった場合、クレームであることが多い。
家賃が遅れるので待ってくれというお願いをされることもある。
いずれにしても入居者から楽しい電話をもらうことは絶対にない。
「いいアパートをお世話してもらってありがとう。おかげさまで楽しく暮らしています。」だとか、「お隣さんもいい人で仲良くやってます」だとか、「日当たりが良くて快適に過ごしてますよ」だとか、「おかげさまで、小学生だった子供が大きくなったので広い家を探してください」だとか、 そんな楽しい話で電話をいただくことはない。
ということで、賃貸物件の入居者からの電話が無いのは平和の証なのである。
電話があるのは、何か不都合なことや不満のあるときだ。
雨漏りがする。
雨戸がしまらない。
網戸が破れた。
水道の蛇口をしめてもポタポタと水がもれる。
トイレの水がとまらない。
トイレが詰まった。
風呂のお湯の沸きが悪い。
風呂の排水の引きが悪い。
シャワーがでない。
電気のスイッチが入らない。
二階の住人の足音がうるさい。
隣の物音がうるさい。
床がきしむ。
エアコンの利きが悪い。
テレビのリモコンがきかない。
ドアのしまりが悪い。
ドアの開け閉めの時にキーキー音がする。
鍵がかかりにくい。
鍵を失くした。
近所の犬の遠吠えがうるさい。
蜂が巣を作っているので駆除してくれ。
蚊が多い。
常夜灯に集まる虫の死骸を片付けてくれ。
自分の駐車場に人が車を停めている。
庭の木が茂りすぎているので伐ってくれ。
雑草を刈り取ってくれ。
近所の家の庭木の葉が散ってアパートのまわりに飛んでくるので、なんとかしてくれ。
虫の声がうるさい。
セミの声がうるさい。
隣の駐車場の灯りが明るすぎて眠れない。
思いつくままに書いてみたが、即座に、書ききれないほど、さまざまなクレームを思い出せる。
こんなの不動産屋の仕事じゃないよ、というクレームもたくさんある。
(とんでもないクレームについて書くと、ブログのひとコーナーできそうで、悪徳不動産屋日記クレームシリーズができそうだ)
入居者からの電話はほとんどがクレームの電話。
電話をとるなり、有無も言わさず「すぐになんとしろ」ということになる。
しかし、今日の電話は、用件は言わずに面談したいとのこと。
私は、聞いた瞬間に家賃値下げの相談だと感じた。
私は、あえて用件は聞かずに、「はい、いいですけど、時間は何時くらいになりますか」と答えた。
「1時くらいにお伺いします」ということで、時間通り1時前に来社。
私は、なにくわぬ顔をして「何かありましたか」と聞く。
お客さんは深刻な顔をして、これまでの経営状態や、税理士さんとの話をし始めた。
やはり内容は家賃値下げの話のようだ。
私は、黙ってお客さんの話しを聞いていた。
しばらく聞いていたが、自分の店の経営状況や、近隣の焦点の状況等の話しばかりで、なかなか肝心の用件に入らない。
お客さんの話が、お客さんの店の近所にある空き店舗の家賃におよんだとき、「結局それで、ご相談の用件はなんですか」ときりだしてあげた。
お客さんはそれを機に本題に入ってきた。
案の定、「売り上げが下がっていて経営が厳しい。税理士さんに、固定費である賃料の負担が大きいので、家賃を下げてもらいなさいと言われた。家主さんに話しをしてもらえないか。」ということであった。
飲食業やサービス業ではなく、コロナの影響はあまりないと思われる業種なのだが、開業当初からなかなか苦戦しているようだった。
それで、過去にも1度家賃を下げている。
このお客さんは、店舗の他に隣接する空き地を一括して駐車場として借りている。
車が5.6台入るくらいの駐車場だ。
私は、自分がお世話したお店は、その後商売が繁盛しているかどうか常に気にしている。
このお店は幹線道路沿いにあるので、通りがかりに注意して見ているのだが、駐車場に車が停まっていることは少ない。
このお客さんの業態として、お客さんが長時間車を停めるということはないはずなので、つねづね駐車場は解約した方がいいいのではないかと思っていた。
そんな意見を私が持ち出すまでもなく、駐車場の方は解約をするということであった。
駐車場代は月額3万円。
それを解約して、さらに当社で管理している店舗の家賃の値下げ交渉をしてくれないかという相談であった。
店舗の家賃は月額8万円。
近隣の家賃相場からして妥当な賃料である。
過去に一度家賃の値下げをしているので、今回さらなる値下げとなると、家主も簡単には了承しないだろう。
私は、心を鬼にしてそのことを伝える。
「家賃値下げを簡単に了解してくれる人のいい家主はいない」
「今借りている店舗より近所の空き店舗の家賃が安いというのであれば、そちらに移転してはどうか」とも言ってみた。
難しい値下げ交渉を、何も言わず簡単に引き受けてしまうと、うまくいっても当たり前、うまくいかないと恨まれる。
依頼者の前提は交渉については無報酬。
割に合う話ではないのだ。
できたら受けたくはない。
しかし私は、弱い立場の人に頼まれると断れないという情けない悪徳不動産屋。
むげに断ることもできない。
今、世はコロナで混乱の最中。
このお客さんの苦境もコロナの影響を多少なりとも受けている。
それを理由に値下げ交渉の余地はあるのかもしれない。
しぶしぶであるが引き受けるしかない。
それにつけても、家賃の値下げを快く了解してくれる家主さんはお目にかかったことはない。
値下げを了承してもらうには、それ相当の理屈をつけて家主を説得しなくてはいけない。
家主にとって不快極まりない話でしかない。
しかも、家主に連絡をとり、面談を取り付けるのにさえ手間をくう。
それから家主が嫌がるのを承知で値下げ交渉。
私は、家主から忌み嫌われる不動産屋になる。
値下げ交渉を依頼するお客さんは、税理士に経営を継続するためには値下げ交渉をしてもらえと言われたらしい。
税理士が偉そうにそんなことを言うのであれば、税理士が家主と交渉をやってみればいい。
「私は税理士だが、うちの顧問先のお客さんが経営困難に陥っているので、家賃を下げてやってください」と、やってみるがいい。
少なくとも、あんたは、家賃も払えない状態のお客さんから月々の顧問料をもらっているのだろう。
私はこのお客さんのために、家主に嫌われる交渉をして、交渉がうまくいったとしてもびた一文報酬はないのだ。
たとえば賃借人は、家賃が月額2万円さがったら、月々2万円、年間24万円の利益を手にするわけなのだが、それに対する報酬を考えてはいない。
不動産会社によっては、家賃交渉では、新規賃料の1か月分の報酬をとったり、それ以上の報酬を請求したりしているところもある。
しかし私は、悪徳不動産屋の名に恥じるべきことなのだが、困りきっている客さんに報酬要求することができない。
かくして、実に楽しくない嫌な仕事を断りきれずに、しぶしぶ家主さんに家賃交渉をすることとあいなる。
家主に電話連絡をすること数回。
結局昨日は連絡がつかず、今日連絡が付いた。
そして、事情を話して価格交渉。
家主は県外在住なので、電話での交渉。
同情を引いたり、お願いしたり。おどしたり、すかしたり。手を変え品を変え、さまざまに説得を重ね、数十分の交渉でなんとか月額1万円の値下げに応じてもらった。
1万円ではあるが、家主の事情を考えるとお気の毒な話。
家主さんからの要求は無かったのだけど、無理やり家賃値下げをさせてしまったので、「家主さんだけに損をさせては申し訳ないから、私の管理料を1000円お引きしますね」と言ってしまった。
やっと交渉に応じてもらったとホッとしたのもつかの間、「私は了解しましたけど、共有者である弟にも了解をとってください」とのこと。
この物件、私のお付き合いのあった所有者が亡くなられて、子供さんたち二人で相続していたのだ。
お姉さんには了解をもらったが、弟さんにも了解をとってくれということでお電話しましたということで、同じ話を弟さんに電話。
あれこれ説得の結果、弟さんも了解。
これでなんとか終わったと思ったら、まだ終わりではなかった。
「今の話しで私は了解しましたけど、この話を姉に確認して、もう一度連絡します」とのこと。
こんなに手間ひまかけて、一銭にもならない仕事をしているのに、私の話を簡単には信用してもらえない。
仕方がない、私は悪徳不動産屋なのだから。
しばらくして、「姉に確認ができましたので了解しました」とのこと。
2日にわたるひと仕事であった。
それにつけても、交渉依頼者の借主は月々1万円の得。年額12万円。5年だと60万円、10年だと120万円の得。
それに反して、家主さんには月々1万円の損をおかけしてしまった。
そのお詫びに当社の管理料を月々1000円下げて私も損をかぶった。
その結果、なんとか了解をいただいて、それを依頼者に報告。
「ありがとうございました。1万円でも助かります。」とのお礼の言葉。
「1万円でも」? その語感には「たった1万円しか安くならなかったけど」という意味が含まれているように感じた。
結果は簡単に見えるかもしれないが、悪徳不動産屋の手練手管を駆使した交渉でやっと勝ち得た結果なのだ。
得したのはあなただけ、家主も私までも将来に向かって損を引き受けているのだ。
愚痴の一言でも言いたかったが、悪徳不動産屋と善良なる消費者が喧嘩しても悪徳不動産屋に勝ち目はない。
黙ってやり過ごすのみ。
またしても、善良なる消費者のために、世のため人のための金にならない仕事に2日も時間をつぶしてしまったと後悔の念に駆られる悪徳不動産屋日記であった。
かくして悪徳不動産屋は、今日もいい不動産屋になり下がってしまった自分の不甲斐なさに涙するのだ。
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