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2021年9月 3日 (金)

悪徳不動産屋日記 推定年月日相続

 ずっと気になっている住宅があった。

 人気のある住宅地域の住宅で、売却の依頼を受ければすぐに売れそうな物件である。

 しばらく庭の手入れもされていないようで、空き家になっているようだ。

 玄関で声をかけてみたが、人が住んでいる気配はない。

 インターフォンを押してみたが、インターフォンも切れているようで反応がない。

 近所の人に聞いてみたら、やはり空家のようだがどうなっているのかはわからなかった。

 それで、登記簿で所有者の調査をしてみた。

 不動産登記簿というのは誰でも見ることができる。

 不動産取引にあたって、誰でも土地の権利関係を確認できるようになっているわけだ。

 拙は、長年不動産業をやっているから、不動産登記簿を見れば権利関係はすぐに理解できるのは当たり前のことで、不動産の所有者の生活まで見えてくる。

 この家の登記内容を調査してみたのだが、なかなか興味深い内容だった。

 平成6年に建築業者から土地を購入しその建築業者で注文住宅を建築したようだ。

 ご主人と奥様、各2分の1の共有名義になっている。

 抵当権の欄で借り入れ状況が分かる。

 住宅金融公庫(現在の住宅金融支援機構)から2000万円の借り入れをしている。

 ご主人と奥様が連帯債務者となっている。

 共働きの若い(30代~40代?)ご夫婦で、ご主人の年収と奥様の年収が同じくらいだったのだろう。

 当地(宮崎県の北端の町・延岡市)においては、上クラスのお客さんで、堅実な生活をしておられて自己資金を500万円から800万円くらいは使っているのではないか。

 子供さんはまだ小さくて、夢いっぱいのマイホームを建てられたのだろう。

 しかし、令和2年に奥様の住所が変更登記されている。

 住所移転の日(住民票の住所が変わった日)は平成23年となっている。

 そして同時に、奥様の持ち分がご主人に所有権移転。

 所有権移転の原因は財産分与。

 財産分与による所有権移転ということは、ご夫婦は離婚されたのだろう。

 令和2年に正式に離婚して、それを原因に財産分与ということで奥様の持ち分がご主人に所有権移転登記されているわけだ。

 登記簿では、奥様が住所を変わったのは平成23年となっているから、このときから夫婦は別居していたのだろうか。

 この後の登記が拙の想像を超える内容になっていた。

 奥様の持ち分を財産贈与でご主人に移転したのが令和2年の8月。

 なんとその半年余り後の令和3年3月に、相続による所有権移転登記がされている。

 単独所有者となったご主人が亡くなられて、県外在住の子供さんが相続してした。

 そして、ここで拙が初めて目にする登記事項があった。

 相続による所有権移転登記の原因日は被相続人が死亡した日時になる。

 登記簿の記載では、通常「原因 令和〇年〇〇月〇〇日 相続」となる。

 それが、この物件の登記では「原因 推定令和3年2月〇日」となっていた。

 相続の原因日、すなわち亡くなられた日が推定令和3年2月〇日なのである。

 推定とはなにか。

 すぐに私は、司法書士に確認した。

 司法書士は即答で答えてくれた。

 「孤独死でしょうね」

 その答えで拙はすべて理解できた。

 なるほどである。

 被相続人となる方が孤独死された場合、正確な死亡年月日がわからないことがある。

 このようなときに、推定年月日と記載されるのだろう。

 被相続人の戸籍にも「推定年月日死亡」と記載されることがあるそうだ。

 不動産は奥が深い、40年以上やっていて初めての登記事項だった。

 

 この登記簿にはすごいドラマが展開されていたわけだ。

 平成6年にあこがれのマイホームを手に入れた。

 子供さんは小学生だったのだろうか、中学生だったのだろうか。

 あこがれのマイホームで楽しい生活が始まり、子供たちの笑い声が響いていたことだろう。

 それから17年後、子供たちは大学を出て独り立ちをし、そしてなにかの理由があって奥様も家を出た。

 長い別居生活が続き、令和2年に正式に離婚。

 皮肉にもその半年後にご主人は誰にも看取られることなく亡くなられた。

 さらに登記簿は語る。

 相続人の息子さんの住所は大分県になっている。

 大学を出て立派な大人になり、大分に自分の家庭を構えておられるのだろう。

 そして恐らく、お父さんはまだお元気だったのだろう。

 お元気だったからこそ、お一人で生活していたのだろう。

 別れた奥様の持つ持ち分を自分に移転させたのも、お元気でまだこの家で生活を続けるつもりだった故だろう。

 もう一つ登記で気になったのは、所有権移転の原因が財産分与ということ。

 奥様の持ち分を財産分与するということは、離婚の原因はご主人によるものではなかった可能性が高いのではないか?


 どういう理由であれ土地建物共にご主人のものになった。

 その半年後にご主人は他界。

 死亡の日が推定期日になっているというのは、看取られることなく亡くなられたということ。

 亡くなられてすぐに気づいてもらえたのだろうか。

 それとも、数日たって見つけてもらったのだろうか。

 死亡原因は、自然死だったのか?事故死だったのか?自殺だったのか?

 亡くなられてから1カ月半余り後に相続登記の申請がされている。

 

 そして、息子さんが相続登記をした2カ月後、この家は売却されていた。

 登記簿にはいろんなドラマが垣間見える。

 

 かくして、悪徳不動産屋の仕事の種は消えてしまった。

 「推定死亡年月日」。倒れるまで学習を続けなくてはいけないのだなあ。

 

 

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