悪徳不動産屋日記 孤独死の物件
昨日の話の続きをする。
昨日のブログで書いた、推定死亡日時で相続登記されていた家(死亡日が推定日付であったから、孤独死だったと推測できる)は、相続登記後2カ月足らず後には売却されていた。
変な縁があるもので、買主は、拙のつきあいのある不動産業のAさんだった。
Aさんは好人物。足元をみて買いたたくような人ではない。
孤独死物件だと一般には売れにくい。
Aさんは恐らく相続人とは知り合いだったのだろう。
早く処分をしたいというような相談を受け、お互いの利益を見出し、相応の価格で買い受けたのだろう。
ここで問題になるのは、この物件の告知義務の取り扱いだ。
死亡日が推定日付であるのは、孤独死をされたのことは間違いないだろう。
その死亡原因は何だったのだろう。
突発的な病死だったのか。
事故死だったのか。
はたまた自殺だったのか。
亡くなられて何日目に発見されたのか。
Aさんはこの家を貸すにしても売るにしても告知義務を負うことになる。
告知義務とは、他殺・自殺・事故死などがあった不動産を売却または賃貸するときには、売主・貸主は、その事実を買主・借主に対して伝えなければいけないという義務である。
不動産業者も、その事実を知っていれば告知義務を負う。
事実を知らずに告知しなくても、あとでそのような事実が発覚すると、不動産業者は調査を怠ったとして損害賠償責任を訴えられる場合がある。
だから、多くの不動産業者は売主、買主に、そのような事実はないかを確認し、確認した内容を必ず告知するようにしている。
ただし、この告知の基準には法的な定めがなく、多くのトラブルを起こしてきた。
それで国交省は、今年5月20日に「宅地建物取引業者による人の死に関する心理的瑕疵の取扱いについて」と題するガイドラインを公表した。
ガイドラインでは、事故物件の告知義務の範囲や期間がかなり詳細に明示されており、今後この基準が周知されることにより、心理的瑕疵に関するトラブルを未然に防ぐことが期待される。
今回ガイドラインで示された基準は以下のようになっている。
殺人や自殺、事故による死亡発生は告知義務があり、その期間については、賃貸の場合、事故の発生からおおむね3年間としている。
つまり、事故から3年経過すれば宅建業法上の告知義務はなくなることになる。
また、これらの事故は、専有部分や室内で発生することを想定しており、隣地や建物前の道路など外部で発生した事故は対象外なっている。
ただし、アパートのような集合住宅の場合は、ベランダ、共用玄関、エレベータ、階段、廊下などのうち日常使用する場所は告知義務の対象に含まれている。
なお、事故死か自然死かが明らかでない場合でも告知義務はあるとしました。
ここで残念なのは、期限を設定したのは賃貸の場合のみである。
売買は賃貸に比べてトラブルになった場合の損害額が大きいという理由で、告知義務の期限は設けられていない。
つまり事故の発生が何年前であっても告知義務はなくならないことになる。
次に、老衰や病気などの自然死は、告知義務の必要はないとされた。
また、事故死であっても、自宅の階段からの転落や入浴中の転倒、食事中の誤嚥など、日常生活の中で起こった不慮の事故による死亡の場合については、告知義務の必要はないとされた。
ただし、発見が遅れたことにより遺体の腐乱が進み臭気や害虫が発生するなどして特殊清掃が必要になった場合には、事故物件として3年間の告知義務を負うことになる。
今回ガイダンスの制定により、告知義務の期間が明確になったことや自然死の告知義務がないことが確認された。
賃貸人や通常の不動産屋にとっては、自然死には告知義務がないことや告知義務の期間が3年に限定されたことにより、賃貸の運営対策がたてやすくなったと喜んでいることだろう。
しかし、拙のような悪徳不動産屋にとっては、まだまだ朗報とは言えない規定だ。
通常の美徳不動産会社は、今回の国交省のガイドラインを錦の御旗にして、物件や事件・事故から3年が経てば告知しないという方針を設定することだろう。
入居後のお客さんから、「自殺があった物件と知っていたら借りなかった。何とかしろ!」というようなクレームが来ても、美徳不動産の看板を後ろ盾に、国交省のガイドラインという錦の御旗をふりかざし「国が定めた基準で告知の義務はございません」と善良なる消費者様を押し返すことができる。
拙のような悪徳不動産屋がそんなことを言っても、善良なる消費者様は引き下がってはくれない。
「知っていて貸したのだろう。教えてくれれば借りなかった。引っ越し代を出せ。次の物件を探す費用を払え。」と怒りまくって許してはくれないだろう。
それに応じず、裁判にでもしてもらえれば、当社が責任を問われることはないだろう。
しかし悲しいかな悪徳不動産屋は、争いごとは大の苦手なのだ。
かくして、事故物件は3年を過ぎても告知を続けていく。
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