悪徳不動産屋日記 相続土地国家帰属制度
今日、不動産の相続の相談のお客さんの来社があった。
通りがかりに立ち寄られたお客さん。
相談は、当地(宮崎県の北端の町・延岡市)から、さらに山間部にある古い家と、農地と山林を相続することになりそうだということで、その処分方法についての相談だった。
どんなに工夫しても売れそうにもない物件である。
相談者もなかなか売れないことを承知での相談だった。
すでに、近隣(といっても数百メートル離れたところにある)の人や、行政にも相談に行った結果、うまい処分の方法が見つからなくて、通りがかりの当社にお見えになられたようだ。
今日の相談の一番の内容は、「相続土地国家帰属制度」のことだった。
いろんな人に相談をかける中で、相続した土地を国が引き取ってくれる制度が始まっているという情報を得て、具体的にその方法を聞きに来たというわけだ。
「相続土地国家帰属制度」は、今年(令和5年)4月27日からスタートした新しい法律だ。
このお客さんの不幸は、拙に相談に来たこと。
拙はASDの悪徳不動産屋。
やさしく答えることができない。
結論を即答してしまうのだ。
「どんな土地でも無制限に引き取る制度ではないんですよ。」と答えてしまう。
重ねて、「引き取ってもらうには相当のお金がかかりますよ」と、むべもない答えをしてしまう。
拙がこの制度を知ったのは1年以上前のこと。
最初に見たのは新聞だったかと思う。
その時は、「相続して使い道のない土地を国が引き取ってくれる制度ができる」という簡単な報道だったと記憶している。
これは朗報と思い、いつから始まるのか、どんな手続きをすればいいのか、インターネットでいろいろ調べていた。
思った通り、なんでもかんでも無制限に引き取ってくれるわけではない。
まず、申請をできないケース=引き取りを却下される土地がある。
建物がある土地。これは建物があると管理に費用が掛かるし、建物は老朽化して取り壊す必要が出るからだ。
担保権や使用収益権が設定されている土地。これは担保権を実行されると国が所有権を失うことになるから。
他人の利用が予定されている土地。他人の利用とは、道路とか、墓地内の土地とか、溜池等。国が取らないのは当たり前のこと。
土壌汚染されている土地。土壌汚染物を撤去するのに莫大な費用がかかるから。
境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地。この理由も明白だろう。
次に、承認を受けることができない(不承認)の土地がある。
一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地。
土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地。
土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地。
(思い出すのは森友学園の土地。9億円の土地に8億円の撤去費用をねびきした事件があったなあ)
隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地。これも説明不要の要件。
その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地。
拙が一番心配なことは、この通常の管理・処分にあたって過分な費用・労力がかかるというところ。
今日の相談者の土地の条件を見ると、住宅部分の敷地は、自分で建物を解体すれば引き取り要件は満たす。
但し建物は解体しなければ引き取らないので、建物解体費用は200万円程度がかかる。
土地の境界が不明だから、境界の確定を専門家に依頼すれば25万円から40万円かかる。
農地、山林も引き取り要件は満たすが、土地の境界を確定するのに費用がかかる。
制度が始まったばかりで、国が境界確定の基準をどう考えているかどうかはわからないが、土地家屋調査士等の専門家が作成した境界立会書が必要だということになると結構な費用が掛かる。
農地はばらばらに点在しているので調査件数が多くなる。山林は土地面積が広大なことと、公図と実際の土地の面積の誤差が多いので、境界確定に数百万円かかることも想像できる。
また、国が引き取るにあたっては10年間の管理料を支払わなくてはならないのだが、その費用も安いものではない。
管理料の計算式に照らし合わせると、概算でも数百万円はくだらないのではないか。
国に引き取ってもらうにはお金がかかる。
お金で済むことなら、きちんとひきとってもらいたいと思う人もいるだろうが、拙が一番心配するのは前述した「通常の管理・処分にあたって過分な費用・労力がかかる」と判定される土地は承認されないかもしれないという要件。
国は引き取るにあたって、管理、処分について関係省庁、地方自治体に調査させることになっているようだ。
山奥の農地や、山林を国が管理するとなると莫大な費用がかかることになるはずだ。
国の管理となれば、実際の管理はどこかの民間企業が受けるわけだ。
国家行事は、直近のオリンピックを見るまでもなく、それを請け負うのは政治家さんと癒着した大企業。大企業は高額管理費から効率よくピンハネして1次下請け業者にまるなげ、1次下請け業者はその下に丸投げして、実際には地元業者まで潤さなくてはならない。
だから、国が土地を引き取ることには金がかかる。
うまく利権が回るシステムが開発されないと、なかなか引き取ることはしない。
要は、辺鄙な田舎の農地や山林のように、金にならない土地は引き取らないのではないか。
正確の曲がった悪徳不動産屋は、そんな皮肉れた考え方をしている。
いずれにしても、相談者が相続した土地を国に引き取ってもらうためには、多額の手間と費用を要することは間違いない。
遅ればせながら、最近になって、拙も、タダでも引き取り手が無いという不動産がある事態に遭遇している。
自分の悪い性格を心から反省するという長所もある拙は、今日のお客さんの相談に対して、すぐに自分を戒め、すぐに方向転換して易しくわかりやすく意見を述べた。
実際拙は、「相続土地国家帰属制度」はまだ始まったばかりで具体的な事例を知らない。
その旨を率直に申し上げて、「国に土地を取ってもらうためには、結構多額の費用がかかるのは間違いありません。制度を調べつつ、親せきや近隣の方の中にタダで引き取ってくれる人はいないかを考えることも一つの方法かもしれないですね。私も行政に具体的な事例を聞いておきます。」とお答えするに終わった。
なぜか、無料相談の多いこのごろである。
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