当社のホームページを見て、気にいったので借りたいという電話が入った。
この節は、ホームページを介しての商談が多くなっている。
こと賃貸物件については、ホームページを見て候補の物件をしぼってから商談になるというお客さんの方が大多数となっている。
しかし、まったく現物を見ないままに契約するというお客さんは少なくて、条件に合う物件をホームページで目星をつけてから現物を見て決定するという流れになる。
ただ、県外からのお客さんとなると、ホームページだけで契約になるということも少なくないが、ほぼ借りるつもりで絞っている客さんも、やはり現物を内見してから契約ということになる。
今日のお客さんは当地(宮崎県の北端の町・延岡市)、市内にお住まいの方。
ホームページには現地の案内図は載せていないのだが、場所はわかっているのだろうか。
「借りるとおっしゃいますが、場所はおわかりになったんですか」
「うん。写真で見て、目星をつけて探して見つけている」
「そうですか。でも中を見ないまま契約はできないでしょう?」
「いや。外観を見て、間取り図とてらしあわせて、これを借りようと思っているんですけど・・・」
お客さんはそういうのだが、見ないまま借りるという話は私が納得いかない。
「後々トラブルの無いように、現地で物件を見て、条件等納得をしてからでないと話は進められないですよ」
「それは、そうですよね。自分も中を見て確認したいと思っていので、今からすぐに中を見せてもらえますか。それと、その時諸経費なんかの計算書も持ってきてください」と言う。
今からすぐにと言っても、本来ならこちらも都合がある。よだきんぼ(宮崎弁で、怠け者)の私としてはすぐに来てくれという話は気に入らない。それに現地集合というのも通常、私は余りやりたくない商談のやり方なのだ。来社してもらったお客さんの内、こちらが貸したくないというお客さんもいる。(何せ、私は悪徳不動産屋。直感的に貸したくないという人がいるのだ)
しかしこの物件は、しばらく空家期間が長くなっている物件で、私の個人的な都合は言っていられない。気がすすまない話なのだが、お客さんの要望に現地集合で物件を案内することになった。
現地に到着すると、声からして若いとは感じていたのだが、若いカップルだった。
電話をしてきたのは男性の方。「あー。急に案内してもらってすみません。これ絶対にいいと思って、借りようと思ってるので・・」などとやけに愛想がいい。
一方の連れの女性は、男性の方が「ね。いいだろう」なんて言っているのに無言である。
私がカギを開けると、男性はノリノリで、「中を見せてもらっていいですか」と室内に入る。
女性は、気乗りしないように男性に続く。
私はと言えば、これはいいですよ、ここがいいですよ、なんてついて回って、押しつけがましい売り込みセールスはしない。
「まずは、ご自由に見てください」と、言葉の通り、まずは自由に見てもらう。
特に今回のように気に入っているような場合は、余計なことは言わなくていい。
男性は、「ね。これならいいだろう。〇〇(女性の職場のようだった)にも近いし」と、女性に同意を求めている。
しかし私には、女性はまったく気に入っていない感じに見えた。
男性は、気にいったので借りたいけど、入居はいつから可能か。できるだけ早く入居したいという意向だった。
余りにも入居を急ぐことは気になるが、話している限り私のこの男性に対する人物感としては入居を認めてもいいと判断していた。
リフォームは済ませている物件で、入居前のハウスクリーニングをしなければいけなかった。それで、急ぐならすぐにハウスクリーニングの手配をするので、清掃御者さんになるべく早くかかってもらうように手配しますと答えた。
男性の「初期費用はいくらになりますか」の質問に、私は初期費用の計算書を示して、もし気に入ってもらったら入居申し込みをして保証会社の審査を受けてもらってからの契約になります。それまでにハウスクリーニングも終わらせます、という説明をした。
すると男性は、「すぐに引っ越したいんので、ここで申し込みできるなら申し込みをしたいんですけど、申し込みは会社にいかないとダメですか。会社までいかないと申し込みできないなら、行けるのが来週になるけど何とかなりませんか」と言ってきた。
私は、そういうこともあるかなと想定して入居申込書と保証会社の審査申し込み書を持ってきていた。
男性は、その場で申込書を書き。保証人予定者にも電話をしていた。
それで私は、早速入居審査をして、審査の結果が出たら連絡します。お急ぎのようですので、同時にハウスクリーニングの手配もしておきますというと、「早く入居したいので、なんとかよろしくお願いします」と嬉しそうに頭を下げられた。
普通ならのんびり屋の私だが、会社に戻るとさっそく保証会社に審査願いの手続きをした。
ハウスクリーニングの手配もなんとか間に合わせた。
その数時間後、先ほどのお客さんから電話が入った。
あれ、なにごとだろう。順調な話であればこのタイミングでお客さんから電話をもらうことはないはずだが。
いやな予感で電話に出ると、「あ。さきほどの○○です。すみませんがさっきの話はなかったことにしてください」
こんなお客ばかりではないが、不動産業ではよくある話。
善良なる消費者様は、なんでもありで何にも悪くない。
逆に、不動産屋が確認ミスで先約で決まっていて貸せないとなると、借りる予定だったのにどうしてくれるんだ。予定が狂って迷惑を被った弁償をしろ。なんていうお客もいる。
今の世の中、善良なる消費者という悪魔が大きな顔をしてのさばっている。
しかし、忘れてはいけない。私は悪徳不動産屋。私は、この「なかったことにしてください」という断わり方が大嫌いだ。。 こんなとき私の言い分は、「お客さん。私をひっぱりまわして貴重な時間を使わせて、何もなかったことにはできませんよ」とういうこと。
たじろぐお客さんもいれば、まだ契約していないんだから文句を言われる筋合いはないと逆切れするお客もいる。
だが、どうあれ、私は自分の言い分をきっちりいわせてもらうことにしている。人を自分の都合で動かしていて、私だけではない保証会社も掃除屋さんも全部あなたの意向で動かされている。私はそれを、「なかったこと」にはできないのだ。
気が変わった、もっといい物件が見つかった、なにかの事情が変わったということでキャンセルしたいのであれば、それを私は責めるつもりはない。
なかったことというのは何にもなかったこと。そんな馬鹿な言い分は通らないだろう。
多くの人を自分の都合で動かしていて、それを「なかったこと」にはできない。
私は、相手がどう思おうと、そのことをきちんと説明する。そして、「労力を割いているのだから、それをなかったことにはできないでしょ。あなたに言ってもらいたいのは、いろいろしてもらって申し訳ないのですが、都合でキャンセルさせてもらえませんかということです。そう言ってもらったら、私は『あ、そうですか』と何も言わずに納得します。以後、こんなときはそうするべきです」ということだけは言わしてもらっている。
それに対する相手の返事は聞かなくてもいい。それでこそ、私は悪徳不動産屋なのだから。
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