まったく知らぬ間に、近所の洋装店が店仕舞いしていた。
このお店は婦人服の店だったが、この数年は男性の店主一人できりもりされていた。
わが社と同じ通りにあって、一旦停止の標識のある角地にある。
私は日ごろからバイク移動しているため、週に、1、2回はこの店の前で一旦停止させられていた。
そのとき、かなりの高確率で店頭で煙草を吸っている店主を見かけていた。
私と店主とは40年以上前からの知り合いであったが、あることがあって顔を合わせても互いに知らぬふりをするような関係になっていた。
私が一旦停止したときに店主と出くわしても、互いに知らぬ顔。
顔を合わせてしま合わせてしまうと気まずい空気が流れるもので、一旦停止をしたときには店の方に顔を向けないようにしていた。
そんなことをしていたもので、この店の閉店に気が付かなかった。
今日、閉店を知ったのは、数日前に息子がこの店の前を通ったときに、不動産業者と関係者のような数人がこの店に入っていたけど何かあったのかなと言たので、気になって店の方に目を向けたからだ。
店は空っぽで、閉店しているようだった。
店の入り口に手書きの張り紙が貼ってある。
バイクを降りて内容を確認してみたら、10月20日付で閉店していた。
「創業40年。閉店セールにて多くのお客からはげましの言葉をいただき、第二の人生を歩んでいきます。」とあった。
当社のすぐ近くにあって、店主とは40年以上も前からの知り合いだった。
40数年前、私はこのお店の近くで、実家の靴屋の支店の店長をしていた。
そのとき、この店主は私の店の斜め前にある『寿屋』という百貨店(小規模の)のブテック部門の店長だった。
互いに年が近くて、ファッション品を扱う仕事だったもので、公私ともに良く話をする仲になっていた。
数年後私は、実家を出て不動産会社に入り、その数年後彼は独立してこの店を出した。
職場が変わっても、もともと私の住まいがこの近辺だってもので、買い物の際などに挨拶を交わす仲だった。
それなに、すれ違っても、互いに顔をそむけるような仲になってしまっていた。
これは、私がASDの傾向があって、嫌なことをされると根に持つ性格のせいである。
原因は、はっきり記憶している。
私が独立して開業したのが20年ちょっと前。
そのとき、この店長は寿屋百貨店を辞め、独立して自分の店を開いて10年以上経っていた。
彼が独立した時は、バブル景気の最中。
店は繁盛し、店員さんも数人抱えていた。
私の店の回転の際には、お祝いの品はくれなかったが、来店し祝福の激励をしてくれた。
そのとき、相談があるという話しをしていて、数日後、彼の店に呼ばれた。
彼の店は賃借物件だったので、自己所有の不動産を買う相談かと楽しみにしてでかけていった。
あにはからんや、話しを聞くと、なんだか雲行きが悪い。
というのは、数年前に彼が務めていた寿屋百貨店とともにこの地域の商店街の核店舗だった『アズマヤ百貨店』が倒産して閉店してしまった。
『アズマヤ』は『寿屋』は、商店街の中心部に隣り合わせに店をひろげ、互いにライバル店と競い合ってきた。
商店街は、この2つのデパートが呼び込むお客さんでで賑わっていたのだが、郊外に広大な駐車場を備えた大型店出店の波に押され、人通りが減ってきていた。
そのせいで『アズマヤ』が倒産し、残る『寿屋』も経営不振がささやかれ、商店街の人通りが減って、店の売り上げは激減していた。
店主は、昔はよかったという話題で話を始めたが、すぐに、今は人通りが減って以前の商店街とは全く違ってしまったという愚痴をとうとうと話し続ける。
私は独立して開業したばかりのことで、今から頑張るぞと前向きに営業していた時なので、あまり聞きたい話ではなかった。
早々に話しを切り上げるタイミングをはかっていたのだが、切り上げる前に店長さんから本題の話が出た。
郊外に大型店が出店し、人の流れが変わって商店街への人の流れが減少している。
それで、自分の店も経営が厳しくなっているので、家賃を下げる交渉をしてくれないかということであった。
木枯し紋次郎ならずとも(この意味わかるかなー?わかった人は高齢者)、「あっしにはかかわりあいのないことで」と、聞き流したい話だった。
私は、この店の契約に携わったわけではないし、家主さんとは面識もない無関係な立場。
そんな私が、家賃の値下げ交渉などできるわけがない。
そもそも、家賃を下げてくれといって、ほいほいと快く下げてくれる家主さんなどいない。
家主にとっては、なんという失礼な奴だと思われるだけだ。
値下げの家賃交渉に快く応じてくれる家主はいないし、しぶしぶでも応じてくれる家主はいない。
ましてや、まったく無関係の私がそんな話をする筋合いはない。
家主を不愉快にさせて、追い返されるだけだ。
そもそも、なぜ、そんな話を私に依頼するのか理解できない。
しかも、大きな困難が伴う、嫌~な仕事なのに、私への報酬のことは一切頭にはない様子。
私に値下げ交渉をする権限も義理もないし、即座に断ったのだが、人通りが少なくなって、今の家賃は高すぎる。家賃が払えないという自分勝手な理屈を並べ立てて、なんとか協力してほしいとあきらめない。
私は、家主が家賃を下げることを了承することはないと思うという私の見解を説明し、自分の窮状を真剣に説明して自分で交渉しないとだめだという意見を述べたのだ、すでに何度か交渉したが了解してくれないというのだ。
すでに何ども交渉してできないことを頼まれても、私にできるはずがない。
家賃が高いというのであったら、近隣に、閉店して安い家賃で募集している空き店舗がいくつかあるからそこに移ったらどうかという提案もしたのだが、立地が良く自分で店づくりをしてきたこの場所は移りたくないという。
まったく無視のいい話で、固く断り続けたのだが、あきらめない。
無理だと言って、頑なに断り続けるのだが、私なら不動産に詳しいから家主を説得できるだろう。なんとか助けてほしいとあきらめない。
情に迫ってこられて帰ることもできない。
ぬきさしならなくなって、家主は絶対に了解するはずがなく、断られることを承知でとにかく家主に話しをすることにして、この場を逃げようと思った。
「わかった。無理とは思うが話だけはしてあげる。それで、だめだったら、私にそれ以上のことを求めないでくれ」ということで、その足で天日の2階にある家主宅を訪問した。
案の定、すこぶる迷惑そうな対応だった。
ただ、まったくの努力なしで帰ろうとは思っていない。
無理だとは思いつつも、私もなんとか少しでも家賃を下げてもらうための話をしたが、まったく聞く耳を持たない。
私は、最後の説得として、「ここ数年、商店街の人通りが少なくなって、何店舗も空き店舗が出て、何年も空いたままの店舗が増えている。この店が撤退して空いてしまうと、次の入居者はなかなか決まらないと思いますよ。だから、少しだけ家賃を下げてあげて、引き続きいてもらった方がいいと思いますよ。」と言ってみた。
すると家主は、「退去するなら退去してもらったほうがいい。自分も年を取ってきて足が悪くなって、二階に上がるのが大変になってきたので、1階の店舗が空いたら、1階を改造して部屋にしたい」とのこと。
しかも、家主さんの言うのには、「家賃がずいぶん遅れていて、催促するのも苦痛だから出てもらった方がいい」というのだ。
家賃が滞っていたということは聞いてなかった。
これでは、まったく太刀打ちできない。
この言葉を聞いて、私は即刻、退却。
2階の家主の部屋を出て、その足で1階の店舗に立ち寄った。
「今、家主さんのところに行って、空き店舗にするよりは家賃を下げて、いてもらったほうがいいという話しをしたのだけど、足が悪くなって階に部屋を作って住みたいと思っているので、出てもらった方が良いということだったので、家賃の交渉は無理だわ」と報告した。
そして、「家賃が遅れているということを言われたけど、家主に話しをするのには、まずは家賃を払ってからのことだよ」と言葉を足した。
私はASD。空気を読まない。忖度しない。
何の義理もない立場なのに無報酬で家賃交渉をさせられ、家主に家賃が遅れていることを知らされ、ぎゃふんと言わされ追い返された。
黙っておけばいいのに、「まずは家賃をはらってからだよ」なんて苦言を呈してしまった。
しかし、私は、何も悪いことをしたとは思ってなかった。
その数日後、私がその店の前で一旦停止したとき、この店主と顔を合わせた。
私が軽く会釈をすると、店主は不快そうに顔をそむけた。
それ以来、私は店主と顔を合わせても挨拶をしないようになった。
その店も無くなった。
また、私の黒歴史の一幕がおりた。
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